こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2021.06.14 定番の定番たるゆえん
子供の頃「ジュースを好む=子供(っぽい)」とみなされることを不満に感じたり、「大人はジュースを飲みたいと思わないものだ」と言われると「なんで?」と思ったりしたものですが、自分が大人になってフと気付くと、果汁・スポーツドリンク以外の清涼飲料水をほとんど摂らなくなっていました。
それでも時々無性に飲みたくなる、なくなったら困るなあ、と思う清涼飲料水はあって、その上位を挙げるなら、カルピスとコーラ、でしょうか。
とくに、ちょうど今頃の向暑の季節、真夏とはちょっと違う、独特な食欲不振や疲労にまいってしまうときがありますよね。そういうとき、自分の身体がカルピスやコーラを「飲みたーーい!!」と求めているのを感じます。ええ、なくなったら困るのです。
今日の休憩のお供。
カルピスは限定フレーバーも楽しいですよね。
(「わりと試す派」です。)
伊丹十三は「コカコーラとカルピス」というそのものズバリな題名のエッセイをしたためて、この二つの飲み物をこんなふうに称えています。
軽い飲み物についていうなら、私は日本のカルピス、そしてコカコーラ、この二つが断然群を抜いて偉いと思う。どこが偉いかというに、双方ともそれ以前にまったく存在しなかった新しい味を開発した。その点が実に偉いと思う。考えてもみたまえ。今カルピスというものがまったく存在しないとしてだよ、あなた、ああいう不可思議なるものを独創できるかね。なかなか思いつけるもんじゃありませんよ。コカコーラもこれに同じ。戦後初めてコカコーラを飲んだ時には色といい味といい、壜の色や形といい実に奇怪な陰気臭い飲み物だと思ったのを覚えている。
私は新しい種類のソフト・ドリンクが出ると好奇心からつい飲んでみるのだが、やはりどうもこれという新作にはお目にかかれないようです。新しい飲み物は、何かこうデザインされた味、という感じがする。非常によく考えられ設計されてはいるのだが味のデザインにどこか無理があって、口の中でその設計を感じさせてしまうという気がする。天衣無縫という趣がない。
その点カルピスとコカコーラの味はいかにも天然自然の感じにまでよくまとまっているのであって、たとえばもともと自然なものであるに決っている牛乳やオレンジ・ジュースと比べても、少しも不自然でない。(中略)
カルピスもコカコーラも「いかにもありそうな」無理のない味のするところがいいのだと思う。
コカコーラとカルピス(『女たちよ!』文藝春秋・1968年)より
上記エッセイ所収の新潮文庫版『女たちよ!』(税込605円)は
館内ショップ・オンラインショップで販売しております!
(岩波書店『伊丹十三選集』の第2巻にも収録されています)
コーラもカルピスも発売以来100年以上の歴史があり、今の私たちにとってはあって当たり前の存在。深く考えることもなく享受してきたのですが「個性的でありながら自然な味わいが素晴らしい」と言われると、「ウーム、確かに」と頷かずにはいられません。
「え、伊丹さんもコーラやカルピス飲むんだ、意外!」と思わせておいて、定番の定番たるゆえんを見抜いている、伊丹十三らしい一文――でも、書かれたのは今から50年以上前なんですよね。
伊丹十三が絶賛してから半世紀、個性的かつ天衣無縫な味のまま、定番であり続けているコーラとカルピス。その実力にひれ伏しながら、これからもおいしくいただこうと思います。
学芸員:中野
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