こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2020.12.14 車
伊丹さんやその作品に影響を受けたんです、という方が、ここ記念館にはたくさん来られます。考え方であったり生活様式であったりとその内容は様々で、これまでもご紹介させていただいたことがありますが、ちょうど一月ほど前にもそんなお客様が来られました。
ご年配のその男性のお客様が影響を受けたというのは「車」です。
その方が30代の頃、伊丹さんが愛車のスポーツ・カーを走らせているのを実際にみたことがあり、それが本当に本当にカッコよかったのだそうです。そのカッコよさがどうしても忘れられず、「自分もあんなふうに車を走らせてみたい!」と、お金を貯めてご自分もスポーツ・カーを買われたのだとか! (実際に乗られていた時のお写真も見せていただきました。)
こんなお話をうかがう度に、伊丹さんという人物の、影響力の大きさを再認識させられます。
伊丹さんといえばロータス・エラン、MG-TFなど様々な車に乗り、1991年にイギリスのベントレーを購入しました。最後の愛車となったこのベントレーは、記念館敷地内にある車庫に展示されています。来館されたことがある方は、黒い車庫にどっしりとおさまり、お客様をお迎えしているベントレーを目にされたことと思います。
そして、エッセイストでもあった伊丹さんは、車や運転法に関するエッセイをいくつも書いています。
上述の男性はそれらのエッセイも愛読されていて、『女たちよ!』(新潮文庫)に掲載されている「スポーツ・カーの正しい運転法」が一番のお気に入りだとか。伊丹さんの運転へのこだわりが感じられて、今でもよく読み返すそうですよ。
一部引用してご紹介させていただきますね。
さて、いまさら申し上げることもあるまいが、自動車というものは危険物でもあります。これを扱うに当って、男たるもの、どんなに自分自身に厳しくあろうとも、厳しすぎるということはない。いわんや、いいかげんな気紛れや、でたらめは許せないのであります。
たとえば、運転のさいの履物一つにしても、最も運転しやすい、正しい履物を選ぶべきである。底革の滑りやすい靴や、脱げやすい草履で運転することは断じて許せないのであります。
これがすなわち「自動車の運転におけるヒューマニズム」というものである。
そうして、われわれは、巧みに運転する前に、品格と節度のある運転を志そうではないか。
交差点で自分の前が右折車なんかで塞がれると、すぐに隣の列へ割り込もうとする人がある。というよりもむしろ日本人の九十九パーセントまでが左様である。
思うに車の運転とは、自分自身との絶え間のない闘いであります。人に迷惑をかけてはならぬ、ということは誰でも知っている。知っていながら割り込むというのは、これはすなわち自制心の欠如というものである。
隣の列がどんどん流れてゆくと、もう矢も楯もたまらない。なんだか莫大に損をしているような気になってくる、
つまりその瞬間なのだ、運転者の品性が決定するのは。こういう時に、甘んじてその場に踏みとどまっていられるだけの、強い意志の力と、人間としての品位を持つか持たないか。これが、よい運転者と悪い運転者との永遠の別れ道となるのである。
「スポーツ・カーの正しい運転法」『女たちよ!』(新潮文庫)より
『女たちよ!』にはほかにもいくつか車に関するエッセイが掲載されています。日常で車を利用している方など、「なるほど~」と思う箇所があるかもしれません。ご興味がある方はぜひ読んでみてくださいね。
スタッフ:山岡
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