こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2020.08.17 冷蔵庫と伊丹十三
先日、自宅のエアコンがウンともスンとも言わなくなりました。本体に貼られたラベルを見ますと「98年製」。まあ、天寿をまっとうしたと言えるでしょうか。
ちょうどその頃、記念館の庭ではセミの羽化ブームが
最盛期を迎えておりました。この写真の中だけで8匹分の抜け殻!
日に日に勢いを増す猛暑に弱り果てながら、何とはなしに部屋を見渡しますと、我ながら物持ちがいいと申しますか、単なる無精の積み重ねと申しますか、エアコンに負けず劣らずの年代物家電がそこここに。学生時代に買ったり貰ったりして、そのまま使い続けてきたものばかり。
「壊れてないから買い替える理由がない」と、未だにブラウン管テレビが現役だったりもするのですが、エアコンの次は、一番長く付き合ってきた冷蔵庫が寿命を迎えそうな気がしています。
あれは1997年の春......大阪日本橋のでんでんタウンにわざわざ出かけて行って、悩みに悩んで買ったんだったなぁ......
冷蔵庫といえば、70年代、ナショナルの冷蔵庫のCMに伊丹さんが出演していました。
その「語り」が面白いので、ちょっとご紹介します。
エー、明治5年、横浜の中川屋嘉兵衛という肉屋さんが、富士山から氷を運ぼうと決心した。
一体なぜそんなことを思い立ったかと申しますと、つまり、明治になって日本人は急に肉を食べ始めたわけです。ところがネ、肉というのはすぐに腐るでしょう? 肉を保存するためにはどうしても氷が必要である。
ところが、氷というのは当時はなかなかの貴重品で、驚くべし、何とアメリカのボストンから輸入していたというんだからたまげてしまう。
ボストンから、と口で言うのは易しいですけれども、ボストンから大西洋を渡って喜望峰をまわりインド洋を越えてやってくるというのだから、これはただごとではない。
そこで、中川屋嘉兵衛は富士山の氷に目をつけたわけです。富士山の氷穴から切り出した天然の氷を、馬の背中にのっけて一路横浜へ到着。さあ、開けてみよう!
......大失敗。
その後、中川屋嘉兵衛は函館五稜郭の氷を運び出すことに成功。
めでたく氷会社を開くわけですが、ものを冷やして貯蔵する、たったこれだけのことにも並々ならぬ苦闘の歴史があったのであります。
そして今、ナショナルのビッグ。
これはもうあなた、自分の家に富士山が一個あるのと同じヨ。
ナショナル冷凍冷蔵庫ビッグTV-CM「冷蔵庫のルーツ」篇
(1977年・テレビマンユニオン制作)より書き起こし
これは、アメリカの大ヒットドラマ『ルーツ』の日本放送に合わせて制作された、特別版の長編CMなんだそうです。ドラマに合わせてCMタイトルも「冷蔵庫のルーツ」。"再現ドキュメンタリー"仕立ての映像に実況風の語りを重ねる伊丹十三お得意の手法が冴え、ACC CMフェスティバルの秀作賞を受賞しました。
常設展示室「十二 CM作家」のコーナーには、映像とともに、このCMのための制作メモを展示しています。完成形のCM映像とメモの違いを見比べたりすると、伊丹さんの工夫ぶりなども想像されて、いっそうお楽しみいただけると思います。
ぜひご注目ください。
まだしばらくは暑い日が続くことと思われますが、ヒグラシやツクツクホーシの声も聞こえてくるようになりました。あと一息、適宜涼みながら過ごしていきましょうね。(※我が家のエアコンは大家さんの思し召しにより新品に交換されました)
記念館限定販売のDVD『13の顔を持つ男-伊丹十三の肖像』(税込3,300円)には、ナショナル冷蔵庫のシリーズ以外にも、遊び心あふれるCM映像が多数収録されています。伊丹十三の愉快なCMを何度もご覧になりたい方、ご遠方で来館の難しい方、どうぞご検討くださいませ。
学芸員:中野
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