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記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2020.07.06 伊丹家の育児の基本方針とは?

先日、ネットニュースで「幼少期に親に嘘をつかれて育った子供は、大人になると社会的適応が困難になる可能性」という記事を見かけました。
親が子供に言うことを聞かせるために嘘をついていると、成人後も悪影響を受け続ける可能性があるという研究結果について書かれた記事です。


子供に言うことを聞かせるために、小さな嘘をつくというのは割とよくある話だと思うのですが、この研究によりますとそれは子供にとって将来的には大変よろしくないことのようです。親の嘘をつく不正直な行動が、子供の信頼を損なうことになるということです。


私はこの記事を読んで真っ先に、「問いつめられたパパとママの本」のあとがきを思い出しました。このあとがきには、伊丹家では子供に「絶対に嘘をつかぬ」という方針をもって育児をしていたということが書かれていたからです。きっと「問いつめられたパパとママの本」を読んだことがある方の中には、同じことを思い出された方も多いのではないではないかと思います。


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「問いつめられたパパとママの本」はオンラインショップでも取り扱いをしております。

こちらをクリック→  問いつめられたパパとママの本

あとがきを一部ご紹介いたします。



「たとえば、私のところへ子供連れで遊びにくる親たちというのが、見ていると相当子供に嘘をつくんです。実に、つかなくてもいいような、下らない嘘を連発する。
たとえば子供が電話機で遊ぶ。初めは親は面白がって眺めております。けれども、やがて子供が受話器を外したりダイヤルを弄ったりし始めると、やはり、子供から電話を取り上げざるをえなくなるでしょう、こういう時に嘘が出るわけなんです。できるだけ摩擦を避けたいという、日本人特有の心情なのか、自分が憎まれ役をやりたくないという気の弱さなのか、
「ホーラ、電話はもうおしまいね、ツトムクン、ホーラ、電話もう壊れちゃった。ハイ電話もう聞こえなくなっちゃったから、あっちへポイしちゃいましょう」
こういう嘘を、何の疑いもなくつるつるといっちゃう。なんで本当のことをいわないのか。親が真剣になって説明すれば、子供は、理屈は判らぬまでも、親の真剣さに何事かを感じるだろうじゃないですか、それが親子というもんじゃないですか。コミュニケイションを信じよう。いや、コミュニケイションを信じざるをえないという、人間のありようそのものを素直に認識し、これをもってわが家の基本方針としよう。」

『問いつめられたパパとママの本』(中央公論新社)あとがき

 

この「親が真剣になって説明すれば、子供は、理屈は判らぬまでも、親の真剣さに何事かを感じるだろうじゃないですか」という部分がなんだかすごく説得力がありませんか? この真剣になって説明する労力と時間を省くために、親は子供に嘘をついてしまうんですよね。


また
「そもそも、絶対に嘘をつかぬ、と親が自ら思い定めることによって、子供に対する態度が真摯ならざるをえぬところに追いこまれるという、この副次的効果がまた馬鹿にできない。」

『問いつめられたパパとママの本』(中央公論新社)あとがき

 

とも言っています。


目先の自分の利益にとらわれて子供に嘘をつくことのデメリットと、子供に真摯な態度で向き合うことの重要さを、伊丹さんは40年以上も前にわかっていたのですね。
このあとがきは皆様にできれば全文読んで頂きたいと思います。お時間がおありの際に、是非どうぞ。


スタッフ:川又