こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2019.10.28 自然食と『タンポポ』
先日お米をいただきました。刈りたて精米したての新米です。
炊きあがりのツヤ、湯気の甘い香り、ひと粒ひと粒の弾力に、感謝と喜びで胸がいっぱいになりました。秋ですねぇ。(もちろんお腹もいっぱいになりました。白いごはん大好きです!)
よほどのマチナカ以外では、住宅街でも
田んぼがそこここにある松山です。
ラーメンを中心とするさまざまな食べ物と、食欲に駆られて生きる人々が続々と登場する映画『タンポポ』(1985年)は、皆様それぞれに好きなシーン、エピソードがおありのようで
「チャーハンのシーンは強烈」
「分かる、カマンベールは押したくなる」
「いやいや、インパクトで生卵のシーンにまさるものなし」
「やっぱりオムライスでしょ」
「鴨南~天ぷら蕎麦~おしるこ~」
「腸詰めになったヤマイモにわさび醤油、食べてみたいよね」
などなど、いろんな方々のお気に入りポイントを伺うのも楽しい作品です。
私はと申しますと、根っから白飯党でございますので、タンポポさんの朝食を「たまらん」場面として挙げさせていただきたいと思います。
おひつからお茶碗へよそわれるごはん、感じよく煮崩れた豆腐のお味噌汁、卵黄とともにかきまぜられる納豆、ぬか床から引っぱり出されたばかりのニンジンとキュウリ。
ゴローさんは焼き海苔にご飯とほぐしたアジの干物をのせ、手巻きにしてパクリ。ターボーも不器用に真似てモグモグ――
自分も画面の中に入っていって、その場に加わりたくなる食卓だなぁと、いつ見ても思います。
そうだ、今日は干物を買って帰ることにいたしましょう。
ところで、『タンポポ』を作った頃の伊丹十三は、実は、美食とは距離をおき、自然食の生活を送っていました。
子育てのために1970年代半ばから取り組むようになり、ごはんは玄米、肉は控えて蛋白質は魚と大豆、白く精製された食品はダメ、砂糖も白いのはダメ、小麦粉もダメ、牛乳ではなく豆乳を、という徹底ぶりだったそうです。
【収蔵庫より】伊丹家で使われていた圧力鍋。
玄米もこの鍋で炊かれたことでしょう。
質素な食生活をストイックに続けていたからこそ、世の中をあらためて見渡してみたときに、食べ物(殊にラーメン)に夢中になる人間たちのこと、人々を夢中にさせる食べ物のことが興味深く感じられて『タンポポ』という作品が発想されたのでしょうね。
この伊丹家の自然食ライフは、ほどなくして終わりを迎えることになったそうなのですが......少し意外でちょっと笑える経緯があったようです。
詳しくは『伊丹十三選集』第3巻(岩波書店)の巻末解説でご次男・万平さんがユーモアを込めて回想してくださっていますので、ぜひお読みくださいませ。
学芸員:中野
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