こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2018.08.13 津川さんと伊丹映画
8月4日、津川雅彦さんが78歳でご逝去されました。
芸能一家に生まれ、若くして映画スターになり、出演作品・監督作品でエンターテインメントに身を捧げ、知的で気さくなトークでも、たくさん楽しませてくださいました。
スクリーンの中、テレビ画面の中の津川さんのお姿には、長年にわたって日常的に慣れ親しんできたので、寂しくて、まだちょっと信じられないような気もしています。
津川さんは、多くのご訃報のニュースで紹介されたように、伊丹映画の常連でいらっしゃいました。10本の伊丹十三脚本監督作品のうち、9本にご出演なさっています。
『マルサの女』ポスター(企画展に展示中)より
そして、インタビューをお受けになるたびに、転機になった作品として伊丹映画を挙げ、伊丹さんとの仕事について熱心に語ってくださった方でもあります。つい先日も、テレビでこんなふうにお話ししてくださったばかりでした。
「しつこい監督、でも、いい監督だから、(細かい注文に対応できるように)1シーンにつき2週間かけてセリフを臓腑に叩き込みました。そうすると芝居が自在になる、つまり、芝居が軽くなるってことが分かった」「だけど、上手くなればいいってもんじゃなくて、役者はやっぱり存在感。人間性を磨いていくのが大事。そういうことにも気付かされました」(2018年7月11日放送、BS朝日「昭和偉人伝 長門裕之/津川雅彦」)
なぜ「臓腑に叩き込む」ほどセリフを練習する必要があったのか......
書籍『伊丹十三の映画』、DVD『13の顔を持つ男』の
津川さんインタビューをぜひご覧ください。
フランス帰りの精神科医、老婆を追いかけまわす食料品店の店主、人間味で脱税者に迫る国税査察官、女次第で出世したり没落したりの銀行員、サミットの開催準備に頭を悩ませる外務省官僚、ワガママな癌患者に翻弄されて成長するエリート外科医、ダメスーパーを立て直していくダメ専務、愛する女優を守るため死を選ぶテレビ局の局長――
こうして書き並べてみるとオファーされた役の幅広さに驚くと同時に、伊丹さんが津川さんをどれほど頼みにしていたかがよく分かりますね。
劇場用パンフレットのキャスト紹介には、津川さんについてこのように書かれています。
「芸者にもてる役人」という注文が伊丹監督からあったというが、さして外側を作るでもなく、本人そのままのようでいて、いつの間にか役になりきってしまっているのがこの人の魅力でもありスケールの大きさだろう。森雅之亡きあとの大きな穴が、今、彼によって埋められようとしている。(『マルサの女』パンフレットより)
「自然体の人」と伊丹が呼ぶように、実に自然でいて、大人の色気や可愛さを持っている。昔のスターは森雅之にしても池部良にしても佐田啓二にしても、佐野周二や上原謙にしても、実にきっちりと「しがない勤め人」がやれたもんだが、この人はそういう昔の映画スターの良き伝統をひいている。(『マルサの女2』パンフレットより)
お別れは悲しいですが、津川さん亡きあとの大きな穴を埋める俳優が今後出てくるかもしれません。次のスターの到来をじっと待つことにいたします。
あちらへ到着したら、映画について、エンターテインメントについて、日本人について、伊丹さんと大いに語り合われることでしょう。
こちらに残る私たちは、津川さんの素晴らしいお仕事をずっと語っていきたいと思います。ありがとうございました。
学芸員:中野
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