こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2018.04.09 伊丹十三は「いたみ・じゅうぞう」と読みます。
アラカンこと嵐寛寿郎さんは「かんジュろう」だとハッキリ覚えたの、いつだったかなぁ。大佛次郎さんは「だいぶつ」じゃないって知ってひそかに赤面したの、いつだったかなぁ。
テレビか、映画館のトークイベントだったような気がするけど、大学の講義だったかしら、友人との会話だったかもなぁ......
最近、そんなことで記憶のモヤと格闘しておりますが、なぜ思い出そうとしているのかというと、「ヒト(人類)が、それまで知らなかったことを覚えるのには、"音"が重要なんじゃないか」と気になっているからなのです。教科書に載っているような人名地名だって、先生がハッキリと声に出して言ってくれたから覚えられたんだろうと思いますし、年号も語呂合わせで暗記しましたよね。
(春らしい空気のモヤモヤとも格闘していますが
タンポポが咲いて中庭はいよいよイイ雰囲気です)
伊丹さんが亡くなって、昨年の暮れで20年が経ちました。
これまで、たいていの人の間で「御存知、伊丹十三」で通るものだと思ってきましたが、これからはそういう前提では語れなくなっていくのだろうな、との感を、年々強めております。「世の移り変わり」とは、こういうことなのですねぇ。自分が記念館で勤めだした10年前には、まだよく理解できていませんでした。
簡単に言えば、今の若い方は、ごく小さい頃、あるいは生まれる前に伊丹さんが亡くなっているわけですから、伊丹さんを知らなくっても不思議ではないし、当たり前ですらあるんですよね。
「伊丹十三」って漢字は難しくないけど、読めなくっても仕方ないのです。(むしろ、字面が簡単であるがゆえに、知ってる側は「読めないわけがない」と思い込んでしまいがちという罠!)
伊丹十三が「いたみ・じゅうぞう」であるということ、どんな人なのかということは、あまりにも日常的に自然と吸収した事柄なので「自分がそれを覚えたのは、いつ、どういうことがきっかけだったか」を思い出せません。
「日常的に」「自然と」というのは、伊丹さんが頻繁にテレビに出ていたのが大きかったと思いますが、そのテレビから流れてきた音声、あるいは周りの誰かが何か言ったのを聞いて、「ふぅん、このひと、イタミ・ジュウゾウっていうんだ」と音で覚えた瞬間があり、次第に「伊丹十三」という文字と一致していったのじゃないかと思います。
私たち大人世代のこうした成長過程に比べると、今の若い方には、このように音声で知る機会が圧倒的に少ない――読めないこと、音で聞いたことのない情報は、記憶に定着しづらいんじゃないかなぁ――
そういうわけで、「伊丹十三は、いたみ・じゅうぞう、って読むんですよ」という説明も、今後は意識してやっていなかいといけないぞ、と考えています。
「人口に膾炙する」とは、ナマス(膾)とあぶり肉(炙)が美味しくって、みんなが喜んで口にすることから来ているのだそうです。
伊丹作品の、伊丹十三という人物の好きなところ、面白いと思うところについて、記念館のお客様方が実に楽しそうにお話ししてくださる、そのご様子からすると、伊丹十三について語るのは、旨みを味わうのに近いものがあるように思います。
これを「人口に膾炙する」ところにまで進めるには、その美味しさを知る人が増えなければいけませんので、みなさんにどんどん話題にしていただきまして、お若い方が「おお、いたみ・じゅうそう、について語るのは楽しいことらしいぞ」と惹かれる、そういう響きをもってこの名が広く語られるようにがんばらねば、と奮ってまいる所存なのであります。
そして、伊丹ファンのみなさんには、ぜひ「いたみ・じゅうぞう」と「声に出して」、できればお若い方々に向けて、大いに語っていただきたい、とお願い申しあげる次第であります。
新聞・雑誌などでご紹介いただくときには(若人向けの記事の場合は特に)「名前にルビをふってください」とお手間をおかけすることと思いますが、ご理解のうえご協力いただけますようにお願いいたします。
*************お知らせ*************
雑誌『POPEYE(ポパイ)』5月号(4月9日発売)の特集"ニューヨーク退屈日記"で、伊丹十三と記念館をご紹介いただいています。ぜひご覧ください。
(もちろんルビ有り、ありがとうございます!)
学芸員:中野
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