こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2017.09.18 鰹と時代
9月も半ば、皆様いかがお過ごしでしょうか。
この三連休は台風ですね...どなた様もくれぐれもご用心を!
つい先日、帰りに寄ったスーパーで、生のカツオのお刺身を見つけました。しかも、宮城県産。
三陸を離れ、カツオといえばタタキが主流の西日本に住みながら「カツオはやっぱり生でなくちゃ」と言い張り続けて20年、三陸のカツオが生で手に入る日が来るとは......!
それはもう大喜びで買って帰り、物流の発展に感心感謝しつつ、故郷の味をいただきました。そんな時代になったのですねぇ。
食べながら思い出したのですが、カツオというと、『女たちよ!』にこんなエッセイがあるんです。伊丹さんが外国映画出演のためにロンドンに滞在していた頃のこと。
このような挿絵のついたエッセイです。
さて、イラストの意味は――??
うちの家主はデリク・プラウスといって日本へもきたことがある評論家であるが、相当な日本通であるからして、うちの台所には常に好奇の目を光らせている。
梅干や葉唐辛子の瓶を手に取って永い間小首をかしげていたりする。
彼の趣味は、日本の商品に印刷してある英文の解説を読むことであった。その怪しげというか奇想天外というか、不思議千万の英文を熟読玩味するのが趣味なのである。
(中略)ある時、彼がごく不思議そうな顔で、これはなんだという。見ると手に「削り節」の箱を持っている。
つまりそれは固く干しかためたマッカレルを機械で削ったものさ、と説明すると彼はいきなり気が狂ったように笑い出した。
「だって、この箱には鬚を剃った魚と書いてあるぜ」
そういってますます笑い転げるのである。私も仕方なく少し笑ったが、つまりこういうことなのだ。
英語で、鉋(かんな)の削り屑を「シェイヴィング」という。鉋で削ることを「シェイヴ」という。それ故に――と鰹節屋の大学生の息子は考えたに違いないのだ――削られた魚は「シェイヴド・フィッシュ」であるに違いない、と。
語学において三段論法を適用する過ちはここにある。「シェイヴド・フィッシュ」はあくまでも鬚を剃った魚であって「削り節」にはならない。
強いていえば「フィッシュ・シェイヴィング」でもあろうか。これでも魚の鬚剃り、という印象を免れない。
「髭を剃った魚の話」『女たちよ!』(文藝春秋、1968年)より
このエッセイが書かれてから50年近くが経ち、日本の食文化も世界中で知られるようになりましたから、「カツオ節やカツオ出汁って、今はもう、当時のようにまったく馴染みのないものではなくなってるだろうなぁ」なんて考えていて、フと思いました。
もしかしたら、イギリス人にも日本人にも違和感のない「削り節」の英語表現、決まった言い方が、今はできているのかも!
それで、調べてみましたら――
ひっくり返りました。
これは......ほんとうなのでしょうか!? ほんとうに、ケズゥリブシィで通じるのでしょうか......
「ホッホッ、そんな時代になったんですねぇ」と笑う伊丹十三を想像しつつも、単なるインターネット検索の限界のような気もしています。
海外にお住まいの方、ぜひ、試して、結果をお知らせくださいませ。
学芸員:中野
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