記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2016.05.23 英語

展示をご覧になったお客様から、「伊丹さんは英語が堪能だったんですね。なんでもできるんだな、と驚きました」とご感想をいただいたことがあります。
常設展示室では、伊丹さんの仕事の一部として、海外の映画に出演したことや、英語の書籍を翻訳したことも紹介していますので、それらをご覧になってのご感想です。確かに、どちらの仕事にも大変な英語力が必要でしょうから、「すごい!」と驚いてしまいますよね。

brochure.JPG映画『北京の55日』(ニコラス・レイ監督/1963年)のパンフレット(中央カラー冊子)
伊丹さんは日本人役で出演していますが、セリフは英語です

books_5.JPG伊丹さんの代表的な翻訳書も展示しています


伊丹さんのエッセイに、英語についてのこんな記述があります。

(前略)思えば、わたくしが英語を習い始めたのは一九四四年、わたくしが、小学校五年のときである。敗戦が翌年の一九四五年であるから、わたくしは、戦時中に英語を勉強した数少ない小学生であったろうと思う。
 わたくしたちのクラスは、特別科学教育学級という、日本の軍部が、将来の科学者を養成するために編成した、一種の天才教育のクラスであって、湯川秀樹、貝塚茂樹先生たちの息子さんたちが、わたくしのクラス・メートであった。(ああ百年の計なるかな)
 わたくしが、こういう学級にまぎれ込んだのは、何とも滑稽な過ちであるが、どういうものか英語だけは馬鹿に好きであって、従って成績は全く抜群であった。(後略)

――「この道二十年」『ヨーロッパ退屈日記』(1965年)より


小学生の頃から英語の勉強をはじめて、英語がとてもお好きだったようです。具体的な習得方法として、こんな風にも書いています。

(前略)英語を、ソロバンや、自動車の運転のように気軽に考えましょうではないか。
 それには、文法や読み書きではないよ。うまくアレンジされた、日常生活で一番頻度の多い文例、即ち「コレハイクラデスカ」「アナタハイクツデスカ」といった文例を、左様、まず三百、理屈もなにもなしに丸暗記することにつきると思われる。つまり小学校上級でできてしまうことなのです。

――「アイ・アム・ア・ボーイ」『ヨーロッパ退屈日記』(1965年)より


「理屈もなにもなしに丸暗記することにつきる」――やはり楽なことではありませんよね。けれど、「ソロバンや、自動車の運転のように気軽に考えましょう」と言われると、少しホッといたします。さらに文章は続きます。

 最近は、テープやレコードの類いが発達したから、こういうシステムで勉強している方も多いことと思われる。まことに結構なことと思うわけですが、最後に一言、忠告めいたことをいわせていただくなら、テープやレコードで会話を練習する場合、必ず、誰かを相手にして、相手の眼を見て練習することが望ましい。それが不可能なら、お宅の猫でも、鏡の中の自分でも、あるいはそこに誰かいると想像してその想像上の相手にでもよい。
 ともかく、独り言に陥らぬよう、何かの工夫をしていただきたいと思う。このことは、習った結果を、実際に役立てる際、意外に助けになると思われるので、さし出がましいことながら、一言申しそえました。

――「アイ・アム・ア・ボーイ」『ヨーロッパ退屈日記』(1965年)より


なるほど、言葉ですから「伝える」ということを忘れないように......ということですね。伊丹さんらしいアドバイスだな、と感じます。

ちなみに、伊丹さんの翻訳書のうち、『ポテト・ブック』(マーナ・デイヴィス著/河出書房新社)と『主夫と生活』(マイク・マグレディ著/アノニマ・スタジオ)は、記念館内のグッズ・ショップでもお買い求めいただけます。楽しい2冊ですので、ぜひお手に取ってみてください。

スタッフ:淺野