こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2016.05.02 シェイヴド・フィッシュ
記念館で販売しておりますオリジナルグッズに、伊丹さんのイラストを用いたゴム印があります。どれも遊び心のあるイラストで、人気があります。
S・M・L 3つのサイズがあり、デザインもさまざまなのですが(オンラインショップでご覧いただけます)、Mサイズのこちらの2点は、伊丹さんのエッセイ「鬚(ひげ)を剃った魚の話」(『女たちよ!』に収録)の挿絵を使用しています。
お客様から「猫と"ねずみ"ですよね?」と聞かれることがあります。小さなゴム印ですので、猫と並べると一瞬ねずみかなと思ってしまう左のイラスト、よくご覧いただきますと「えら」がありますよね。「魚」なのです。
お客様から、「このイラストが挿絵のエッセイって、どんな内容ですか?」とご質問いただくことがございますので、簡単にご紹介させていただきますね。
――伊丹さんがロンドンにいた頃、日本の商品を豊富に扱う食料品店を利用していたことから始まるエピソードです(以下、エッセイの一部引用です)。
(前略)ロンドンのわが家の台所は、常に日本の食料品で潤っていた。
うちの家主はデリク・プラウスといって日本へもきたことがある評論家であるが、相当な日本通であるからして、うちの台所には常に好奇の目を光らせている。
梅干や葉唐辛子の瓶を手に取って永い間小首をかしげていたりする。
彼の趣味は、日本の商品に印刷してある英文の解説を読むことであった。その怪しげというか奇想天外というか、不思議千万の英文を熟読玩味するのが趣味なのである。(中略)
ある時、彼がごく不思議そうな顔で、これはなんだという。見ると手に「削り節」の箱を持っている。
つまりそれは固く干しかためたマッカレルを機械で削ったものさ、と説明すると彼はいきなり気が狂ったように笑い出した。
「だって、この箱には鬚を剃った魚と書いてあるぜ」
そういってますます笑い転げるのである。私も仕方なく少し笑ったが、つまりこういうことなのだ。
英語で、鉋(かんな)の削り屑を「シェイヴィング」という。鉋で削ることを「シェイヴ」という。それ故に――と鰹節屋の大学生の息子は考えたに違いないのだ――削られた魚は「シェイヴド・フィッシュ」であるに違いない、と。
語学において三段論法を適用する過ちはここにある。「シェイヴド・フィッシュ」はあくまでも鬚を剃った魚であって「削り節」にはならない。
強いていえば「フィッシュ・シェイヴィング」でもあろうか。これでも魚の鬚剃り、という印象を免れない。
「シェイヴド・フィッシュ」は彼によほど強い印象を与えたに違いない。彼は私に「シェイヴド・フィッシュ」の絵を描いてくれと子供のようにせがむのであった。(後略)
――「鬚を剃った魚の話」『女たちよ!』(1968年)より
――というわけで、「カミソリをといでいる理髪師の猫」と「理髪店の椅子に座っている魚」の絵を伊丹さんが描いたんですね。とても伊丹さんらしい絵だなと思います。
このエッセイをお客様にご紹介いたしますと、「じゃあ、2つのゴム印をセットで買わなきゃね」とおっしゃっていただくことがあります。確かに、並べると一層楽しいですね。
ゴム印以外にも、グッズショップで販売している缶バッジやシールにこのイラストを使用しています。
エッセイ『女たちよ!』とあわせてお買い求めくださるお客様もいらっしゃいます。皆様も、ぜひどうぞ。
スタッフ:淺野
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