こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2015.11.23 第7回「伊丹十三賞」記念イベントを開催いたしました
2008年に創設し、今年で第7回目を迎えた伊丹十三賞。恒例となりました秋の記念イベントを、今年は2つ開催させていただきました。
● 受賞者・新井敏記さんによるトークイベント(11月10日/伊丹十三記念館)
● 新井さんと親交が深い沢木耕太郎さんによる講演会(11月9日/松山市民会館)
おかげさまで、ともに盛況のうちに終えることができました。ご来場くださった皆さま、誠にありがとうございました。
本日は、スタッフ・淺野のレポートとして、2つのイベントの様子をお届けさせていただきます。後日、当サイトにイベントの採録を掲載させていただく予定にしております。掲載までにお時間をいただきますが、しばらくお待ちいただけましたら幸いです。
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まずは、11月9日(月)に開催いたしました沢木耕太郎さんの講演会の様子からお届けいたします。
今回は、松山市民に文化の拠点として長く親しまれている「松山市民会館」の中ホールで開催いたしました。
はじめに、ご来場くださったお客様へ宮本館長よりご挨拶。
続いて講師の沢木さん(写真左)と受賞者新井さん(写真中央)にも
ご登壇いただいて、3人でミニトーク。
ミニトークの冒頭、沢木さんを前に、新井さんはこんな風におっしゃいました。
「松山に沢木さん来ていただいて、ほんとに僕自身が一番喜んでいるんです。みなさんもそうでしょうけど、講演をされるということは沢木さんはめったにないので、それを、すごく僕は一番喜んでいます。今日はありがとうございます。」
宮本館長が降壇し、沢木さんと新井さんのミニトークが続きます。
新井さんの受賞について、お二人で10分間ほどお話をしてくださいました。
その後、いよいよ沢木さんのご講演です。
沢木さんから事前に頂戴しておりました今回の講演会のテーマは「縁について」。
その冒頭、沢木さんは一度この講演会の依頼を断ったことを明かされました。そして、一度断ったにも関わらず、なぜ今ここにいるのかについて「これから1時間かけて、その話をするんです」――と、ご来場の皆さまに語りかけるようにお話を始められました。
――ここから先の、沢木さんがお話しくださったエピソードの数々は、後日公開予定の採録ページでご紹介させていただきますね。講演の2日前にテレビで放送された、あるドキュメンタリー番組のお話から始まったのですが......皆さまじっくり聴き入っていらっしゃいました。
"なぜ今ここに沢木様がいらしてくださっているのか"の背景には、たくさんの偶然があったことが講演を通して明かされたのですが、講演会の終わりに沢木さんは――
「僕は、なんていうんでしょう――あんまり頑ななところがないんで、わりと何でも順応できるところがあるんですね。そのある種の順応できるところが、偶然を自分の中に引き寄せる......」
――とおっしゃり、その引き寄せた偶然を柔軟に受け止められることがご自身の特性だとご説明なさいました。さらに――
「偶然というのは、一回で終われば一回性のものだけど、それが細い糸になって『縁』というものになって繋がっていくと、それが一回性のもので終わらなくなる。でも『どうしたら一回性のもので終わらなくなるか』ということですよね。」
――と続け、そうした一回性の偶然を、「努力」と「人間としての力量」で「縁」という糸にまで引き伸ばすことができるのが新井さんなのだとおっしゃり、編集者・経営者としての新井さんの手腕を、あらためて称えていらっしゃいました。
また、「書き手」としての新井さんについても触れ、これまでの肩書にとらわれず「今、目の前でやりたいことがあったらそれをやっていく」「いきいきと生きられるところで生きていきたい」という、沢木さんと新井さんに共通する想いについてお話しなさって、講演を終えられました。
引き寄せた偶然を柔軟に受け止めて、それを「縁」という糸にまで引き伸ばす......素敵なお話でした。謎を解いていくような楽しさもありました。
また、沢木さんの語りかけるような口調はとてもやわらかくて、拝聴しておりますと幸せな気持ちになりました。沢木さん、本当にありがとうございました。
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続いて、翌日・11月10日(火)に開催いたしました新井敏記さんのトークイベントの様子です。
この日は、受賞者・新井さんとご一緒に、聞き手として松家仁之さんにもご登壇いただきました。松家さんは、新潮社で「考える人」「芸術新潮」の編集長をつとめるなどご活躍なさり、新潮社退社後、2012年には長篇小説『火山のふもとで』(読売文学賞)を発表、現在は文芸誌「新潮」で長篇小説『光の犬』を連載なさりながら、雑誌「つるとはな」の編集制作にも携わっていらっしゃいます。
ご来場くださったお客さまにご挨拶をする宮本館長。
まずはじめに、宮本館長はお客さまにこんな想いを明かしました。
「わたしね、夢だったんです。ここで、ほんとうにこの限られた空間で、何かできないかってずっと思ってまして......」
――続けて、雑誌づくりや本について新井さんに深くお話ししていただくには、この空間が合うのではないかと思ったということを宮本館長がお話しして、記念館初のカフェ・タンポポでのトークイベントがスタートいたしました。
新井さん(写真左)と松家さん(写真右)
お二人の後ろにある絵は、映画『タンポポ』製作時に伊丹さんが描いた出演者のデッサンです。
新井さんは、時にご自身のお仕事と重ね合わせながら、伊丹さんについて多くのことを語ってくださいました。その詳細は採録でご紹介するとして、私がとても印象深く感じた部分を、少しだけご紹介させていただきますね。
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新井さんが中学生の頃、こっそりと御覧になっていたテレビの深夜番組『11PM(イレブン・ピーエム)』の中で、伊丹さん制作出演の短編映像(映像商品化されていないものです)が流れたことをお話ししてくださったのですが、当時の新井さんはその映像に、大変なインパクトを受けたのだそうです。もちろん、それを作ったのが誰なのかを知らずにご覧になったそうですが、とにかく映像として鮮烈に印象に残っているそうで、ご覧になったのは一度きりにも関わらず、ありありと覚えていらっしゃるそうです。
そんな体験をふまえ、伊丹さんの作品がいつまでも新鮮に感じられることについて、新井さんはこんな風におっしゃいました。
「古びることがないっていうのは何だろうなって、ずーっと(記念館を)巡りながら考えていたんですよね。それはまだ分からないんですが、それは、ほんとに自分が好きなことをやっていることの頑丈さなのか、それとも感覚的なものが――それが本質をついているから古びることがないことなのかわからないですけど、それはすごく僕にとっては謎ですよね。それは僕ね、今回記念館に来させていただいて、すごく宿題みたいな感じです。」
トーク内容とカフェの雰囲気がピタリと合って、濃密な空気が流れていました。
また、聞き手の松家さんが、「(伊丹さんは)伝えたいことをどうやって伝えるかということに、ものすごく心をくだいた人じゃないかと思う」とお話しなさった時には、新井さんはこう続けられました。
「伊丹さんのエッセイを読んでいても、その部分はありますよね。だから、どういう生き方をするのかっていうのがまず前提にあって、そのためにどういう一歩を踏み出すのかっていうことを明快にしているような感じがするんですよ。そういう意識も僕はあまりしていなかったんですが、今回、記念館の中を歩いてみて、一個一個それを紐解くような、分け入るような感じがして――ちょっと楽しさと、ちょっと怖さがあったんですよ。それはやっぱりもう一回違う謎を、もう一回僕の中で宿題が課せられた怖さがありましたね。だから『編集者としてお前どうなんだよ』って言われている感じが――伊丹さんの本ってそういう風に絶えずね、問われるんですよ。だからヒリヒリするんですよ。それはね、ほんとにヒリヒリしながら――それがちょっと嬉しかったんですよ。」
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イベントのほんの一部分をご紹介させていただきましたが、いかがでしょうか。
新井さんが熱を込めてお話ししてくださった様子が、少しでも伝わりましたら幸いです。宮本館長のイメージ通り、カフェという空間が今回のお話にピッタリだったように感じました。
最後は、「ここに立てたっていうこともすごく嬉しいし、やっぱり何度も言うように、伊丹さんをもっと知りたいと思いました」とお話しくださった新井さん。ありがとうございました。
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あらためまして、受賞者の新井さん、そして沢木さん松家さん、すばらしいお話をありがとうございました。そして、イベントにお越しくださった皆さまにも心より感謝申し上げます。
皆さま、今後とも伊丹十三賞をどうぞよろしくお願いいたします。
スタッフ:淺野
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