こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2014.12.01 『ポテト・ブック』復刊!!
『主夫と生活』(アノニマ・スタジオ)に続いて、『ポテト・ブック』(河出書房新社)が復刊され、記念館のグッズショップでも販売を開始いたしました。
『ポテト・ブック』も『主夫と生活』同様、元はアメリカのベストセラーで、伊丹十三が翻訳を手がけています(アメリカでは1973年、日本では1976年出版)。
長らく絶版になっていて、記念館のお客様からも「どうしたら手に入りますか?」とのお声がとくに多かった訳書が、しかも2冊ほぼ同時に復刊されるとは、嬉しい限りです。
復刊への道のりがどういうものか、出版素人の私には想像するしかありませんが、熱い思いをもって企画してくださったにちがいない出版社のみなさまにお礼申しあげます。
左が1976年の『ポテト・ブック』(ブックマン社)、右が復刊版。
矢吹申彦さんの表紙イラスト、サイズ、中のページもすべて同じ、完全復刻です!
※復刊版には矢吹さんのすばらしいエッセイが加えられています※
ところで、ちょっぴり気になっていることが。
いえ、心配しているのではなくて、ひそかに興味を抱いてるってことなんですけれど、『ポテト・ブック』って書店ではどのコーナーに陳列されるんでしょうか??
なにせレシピ――伊丹十三風に申しあげるならレセピー――がオードブル――伊丹十三風に申しあげるならオール・ドゥーブル――からお菓子にいたるまで、なんとなんと98種もおさめられているのですから、立派な料理本と言えます。「言えます」も何も、腰帯にそう書いてありますし、訳者まえがきの冒頭にも「アメリカからやってきた料理の本であります」とあるんですけどね。
でも、「決してただの料理の本とは思ってないんです」とも。
この本は、そもそもは、アメリカのとある私立学校が奨学基金を作るために出版したもので、「わが校はポテト畑にあるから」という理由でじゃがいもがテーマになったんだそうです。
だからといって、じゃがいもだけでまるまる一冊の本ができあがってしまううえにベストセラーになるなんて、アメリカ社会におけるじゃがいもの重要性・スター性は日本におけるお米やお豆腐を超えるかもしれません......それでね、伊丹さんの言うには、
私はこの本を訳しながら、片っ端から作ってみましたよ。作っちゃぁ女房子供に食べさせた。これは楽しかったですね。ポテト料理というのは、安直でいながら、しかも想像力を刺戟するところがいいんです。つまり、今までせいぜい、じゃがいもの煮ころがしや、挽き肉とじゃがいもを甘辛く煮たやつや、マーケットのポテト・サラダや、肉屋で買ってくる冷えたコロッケや、どちらかといえば夢のない、いかにもお惣菜風の扱いでしかなかったポテトの彼方に、突如として、広広とした新大陸が出現したんです。ポテト料理とともに、牧畜文化が、大規模農業が、そして、それを生み出した生活のゆとりが、私の周辺に漂ってくると思われた......
『ポテト・ブック』訳者まえがきより
日本でもごくありふれた野菜のじゃがいもですが、そういう「誰もがあたり前だと思っているもの」をとっかかりにして、ものごとの本質にせまりながら広い世界を語ってしまうという方法、伊丹十三の著書やテレビや映画と同じですね。伊丹さん、訳しながらニコニコしてたんだろうなぁ。
ということで、「じゃがいもの料理本を買ってきたつもりがアメリカ文化・西洋文化が詰まってた!」という驚きも楽しめる本、それが『ポテト・ブック』なのです。
(「えっ、バターをそんなに入れるの!?オーブンで1時間半も!?これだから西洋人の料理は......」っていうようなことも含めてネ。)
さあ、全国の書店さんは、この本をお店のどこに並べるのでしょうか。店員さんのセンスによっては社会学系の書棚に......!?
店頭検索機を使わずに探してみるのも面白そうです。
【オマケ】
カバーを外して"ムキ身"にしてもほとんど同じ!
なんとすさまじい完全復刻ぶりでしょうか~! 脱帽!!
学芸員:中野
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