こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2014.06.16 草の季節
例年より早い梅雨入りでしたね。
松山は雨量はそれなり、冷えも蒸し暑さもそれなり、といった日が続いています。
と、油断していると土砂降りに見舞われることもあります。
みなさまもご油断なくお過ごしください。
世の中には(職業上の事情は別にして)雨降りの嫌いな方もいらっしゃるようですが、私は割と好きなほうで、多少の雨なら傘を差さなくても平気で出歩きますし、適度な雨音が聞えてきたりなんかすると非常に気分が落ち着いて、心地よく感じます。
しかし。このところは雨が降ると「草が生えてしまう!!」と気が気ではありません。
昨今「草生える」といえば、「笑っちゃう」という意味のネットスラングなんだそうです(長くなるので由来はここでは割愛させていただきます)けれども、私の「草が生える」はまったく笑えません。
草=雑草です。
4月以降、時間を見つけてはむしってきた記念館の庭や花壇の雑草――固い決意のもとに一掃を目指して一進一退、何とかせめぎあってきた雑草――そのために私は膝を痛めもしたというのに――が雨の恵みを得ると、驚異的なスピードで復活してしまうのです。それがもう、口惜しくて悔しくて......
深夜、雨音を聞きながら目を閉じると、早送りのような速度で生長して増える雑草の様子がまぶたの裏にありありと......
数日もすると......あまりにも多勢に無勢、『大殺陣雄呂血』状態!
「いっそ除草剤をぶちまけて根絶やしにしたい」なんて考えを起こしたりもします。でも、それが一番、伊丹さんの嫌うやり方のような気がするんですよね。
雑草のそよぐ中庭を見て「この景色が伊丹さんらしい」と嬉しそうに言ってくださる方もいらっしゃることですから、まぁ、ボーボーにしない程度に、よからぬ虫の温床にならないように、(しかし膝は痛めないように)ぼちぼち草と付き合っていこうと思います。
それにしても、雑草の生命力にテンテコマイしていると、人間様の事情と所業によってペンペン草も生えなくなったところが地球上のいたるところにあるというのが、何だか信じがたいことに思われます。草を負かすのが目的ではないにしても、生えなくするというのは相当に強烈な破壊の力でないと不可能です。人間、おそるべし。
企画展「旅の時代」では、伊丹十三の直筆ナレーション原稿を入れ替えながらたっぷりと展示しています。現在展示中のものの中に、自然保護の難しさについて端的に的確に分かりやすく語ったものがありますので、ご紹介させていただきます。
埋め立て工事直前の鹿児島県志布志の海岸を訪ねて豊かな自然を紹介した
『遠くへ行きたい』第91回「海は青く地球は緑だった」(1972年7月2日放送)
のために書かれたものです。
自然保護という考え方は、実に説得力を持ちにくいんですネ。
つまり、公害であるとか汚染に関しては誰だって関心を持たざるをえない。
光化学スモッグで子供が病気になった、母乳からPCBが検出された、魚を食べてミナマタ病になった、水道の水を飲んでカシンベック病になった、空気が汚れて紫外線が不足し、子供の骨がたやすく折れる。こういうことには常識のある人人は誰だって反対するにちがいない。
ところが、その同じ人人が今後自分が行くこともないだろうような遠い鹿児島の浜べが滅び去り、そこに住む鳥や魚が絶滅に瀕していると聞いてもさしたる感動もおこさない。
つまり、自然保護ということは被害がまだ起っていないだけに大変訴えにくいテーマなんですね。
しかも自然にはネダンというものがない。
美しい風景にはネダンというものがない。
だから、なにかこう、これによって住民の所得がいくら上るというような、ネダンのある説得には大変対抗しにくいということがある。
一体、われわれはなぜ自然を大切にせねばならぬのか。
このことをようく考えて、地球上の人間の一人一人が、はっきりと自分なりの答えを心の中にたたみこまねばならぬ時が来ているのではないか。
そんなことを考えつつ私はシブシの浜べをいつまでもさまようのでした。
自然にはネダンというものがない。だから、ネダンのある説得には大変対抗しにくい――このコメントの中の「自然」は、いろいろな言葉に置き換えることができそうです。
その貴さを理解し、重んじ、みんなと共有して後世に引き継ぐべきものほど、値段をつけられないものかもしれません。
そういえば「平和」にも「安全」「安心」にも「文化」にも値段はつけられないんだよな......と、そんなことを考える2014年の6月です。
「健康」も値段では語れませんね。ワールドカップで夜更かし&早起きしても、お体はお大事に。
学芸員:中野
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