こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2014.04.21 サラダ名言集
元気な野菜がお店に並ぶ季節になりました。みずみずしくぷりぷりしたお野菜が「アタシ、おいしいのよ!」と語りかけてきます。
「サラダをモリモリ食べちゃうぞ~」とレタスをむしっていると、まぁ、もう、あっちからもこっちからも虫が......虫にとってもおいしいってことですね。
伊丹十三のお料理エッセイというと、スパゲッティの茹で方(アルデンテ)・食べ方、当時の日本ではまだ珍しかった外国の料理や食品を紹介したもの、料理人の技と知識に取材したもの、などが有名どころかと思いますが、今も昔も食卓の一軍レギュラー、サラダについて綴ったものも名文です。
サラダというものは、第一に野趣のあるものでなくてはならない。日を一杯に浴びて育った野菜を、今畑からとってきたという感じでばりばり食べる。これがサラダの根本精神である。日本のサラダにはこの根本精神が欠けている。サラダから、太陽や、野や畑や土が少しも感じられぬ。(中略)あの、白っぽい人造レタスに、罐詰のアスパラガスなんかつけて、しかもこれに瓶詰のマヨネーズをかけた、なんて、こんなものをサラダと思ってもらっては困るんだよ、ほんとに。
「西洋料理店における野菜サラダを排す」『女たちよ!』(1968年)
右:文藝春秋の初版本
左:今でも書店でご入手いただける復刻版・新潮文庫
「サラダなんて特別な料理ではないけれど、誰もが日常的に食べるものだからこそ、誤った認識でいてはいけないのだ!」という気魄を感じますねぇ。
野趣こそサラダの根本精神。というわけで、イキのよい野菜が手に入ったら、ありがたく、可及的速やかに、サラダにしていただくべし。
さて、レタスその他、丁寧に洗ってよーく水を切って、あるものは火を通し、千切って刻んだら......
......問題はここから、ここからが問題なのです。
瓶入りのサラダ・ドレッシングというものがある。
ギクリ...
フランス人が聞いたらきっと腹を立てるだろう。
ですよね...
サラダを作るにあたって、ドレッシングを自分で作らないとするなら、その人のすることはなにもないではないか。そこまで無精になってしまってよいものか?
うッ...
ドレッシングなんていうのはね、あなた、私にいわせれば料理人の個性そのものだと思うよ。
ハイ...
既製品のドレッシングを使う人は、人間も既製品ということだ。
すすすすみません!!
「ベスト・ドレッシング」『女たちよ!』(1968年)
――「人間も既製品」。なんて厳しいひとこと! でも当たってるなぁ、言われちゃったなぁ......
これを読んだ日から、瓶入りのドレッシングを買うのをやめた人、やめないまでも考えるようになった人、あるいは、買うんだけど罪悪感を抱くようになった人は少なくないと想像いたします。これら全部の混合型で、弱い自分に勝ったり負けたりの人もいるかもしれません(私です)。
まぁ、手作りドレッシングと言ったって、そんなに手の込んだものではありません。
・ドレッシングはサラダ・ボウルの中で先に作る(「かける」のではなく「和える」ということです)
・にんにくをボウルの中で潰す、酸味はレモンを主体にしてお酢はちょっときかせる程度
・黒胡椒はミルで挽く
・マスタードと砂糖をちょっぴり。
『女たちよ!』に書かれているポイントはこれだけです。お砂糖はかなり重要ですよ。あとはオリーブ油とお塩ですね。ハーブは具に合わせてお好みで。
伊丹さんにしてみれば、「こーんな簡単なことで、うんと美味しいサラダが食べられるのか!」と知ったときの嬉しさを、みんなに伝えたかったのでしょう。
伊丹さんのレモン搾り。
ドレッシング作りにも使われたかな~?
でもねぇ......近年、瓶入りのドレッシングもだいぶおいしくなりましたものねぇ......カロリー控えめなのもいろいろありますしねぇ......洗い物も減らせますしねぇ......乳化させた油を洗い流すのってけっこう面倒なんですよねぇ......あ、言い訳で「面倒」なんて言うから、私はいつまでたっても「既製品人間」なんだわ......やっぱり手作りで......うーん。
レモン搾りなどの調理器具、食器......
愛用品たくさんの常設展「料理通」コーナー
この界隈のスーパーをご利用のみなさん、ドレッシングの棚をジットリと見つめて悩んだ末、一本引っ掴んでカゴに入れ、コソコソとレジに急ぐ私の姿を見かけても、伊丹さんにはナイショにしといてくださいね。
学芸員:中野
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