こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2014.03.03 伊丹さんの砥部焼
さて、前回からの続きです。
1994(平成6)年8月、伊丹十三は愛媛県久万高原町にある町立久万美術館を訪ねました。
父・万作が1927(昭和2)年に描いた『櫻狩り』という絵を見るためです。
1989(平成元)年に開館した久万美術館の所蔵品は、井部栄治(よしはる)氏のすばらしいコレクションが中心となっているのですが、この『櫻狩り』は、伊丹万作の松山中学時代からの友人だった宮内一乗氏が、万作から贈られて以来、ずっと大切になさっていた作品です。
若 き日に松山で開業したおでん屋「瓢太郎」に失敗して無一文になった万作が、家に迎えてくれるなどして親身に支えてくれた宮内さんへのお礼に描いたものだそ うで、宮内さんが1991(平成3)年に亡くなられた後、久万美術館が寄贈を受け、多くの人々に愛される作品になっています。
宮内さんがごくプライベートな宝物として居室に飾り続けていたこともあり、久万美術館に収蔵されていることを伊丹プロダクション社長の玉置泰氏から聞かされるまで、伊丹十三もこの絵の存在を知りませんでした。
伊丹十三は一家で愛媛へ来て初対面を果たすと、じーっと見入り、そして、父・万作らしいユーモアあふれる表現を大変に喜んだそうです。
ところで......この時、伊丹さんが密かに目に留めたものがありました。
出されたお茶の入った、白い湯呑茶碗。上の写真で、テーブルの奥側に寄せられたお茶碗です。砥部焼春秋窯の工藤省治氏の作と知り、伊丹さんは砥部町に工藤さんを訪ねて湯呑茶碗や飯碗や小鉢を注文。
久万美術館で伊丹さんを迎えた松岡義太元館長は後日それを知って、開館時に松岡さんが強い思いを持って「これ」と決めた来客用のお茶碗の美しさに、伊丹十三も心を動かしたことを嬉しくお思いになられたそうです。
慌ただしい旅の最中でも出会いのセンサーを働かせ、ひとたび出会ったらチャンスを逃さない、実に伊丹十三らしいエピソードです。この時手に入れた伊丹さんお気に入りの湯呑茶碗は、現在開催中の『旅の時代』展でご覧いただけます。
そしてビッグニュース!
なんと、この絶好のタイミングで工藤省治さんの作陶の軌跡をたどる展覧会『現代砥部焼の原点 工藤省治の仕事と昭和のデザインプロジェクト』が3月15日(土)~30日(日)、愛媛県美術館で開催されます。
55年にわたる工藤さんのお仕事をめぐる展示もまた、「旅」のようなすばらしい体験を与えてくれるに違いありません。お楽しみに。そしてお見逃しなく。
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