記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2014.01.27 辞書

エッセイ集『再び女たちよ!』(伊丹十三著)の中に、「辞書」という一遍があります。

"(前略)「ゆるす」という字の中では「赦す」という字が一番慈悲深いように思えるし、「飲む」「食う」という字からは格別の印象を受けないのに「呑む」「啖う」などには鮮やかなイメージを感じるのである。

(中略)

 知識をひけらかそうというんじゃ毛頭ない。その漢字の持つイメージに対する愛着が、その字を使わせてしまうのです。
 だから私は、たとえば「沈む」のほかに「淪む」「湎む」を使った。「赤い」のほかに「朱い」「紅い」「赫い」「丹い」「赭い」「緋い」を使った。(後略)"

伊丹さんの、漢字への深い愛情が窺えますね。同じエッセイの中で、漢字に凝っていた高校時代の話として、

"漢文の授業は、漢字と、その惹きおこすイメージの無限の宝庫であった"

 とも記しています。

そんな伊丹さんですから、日本語の用法にもこだわりを持ち、辞書を好んで使用していたそうです。

実は私、先日新しい辞書を1冊購入しました。日本語表記のルールをまとめた辞書です。

池上さんの講演を「音声」から「文章」に書き起こすにあたり、「漢数字と算用数字の使い分け」といった、表記上のルールを把握しておこうと思い、購入しました。参考書のようなつもりでその辞書を引いていたのですが、これがなかなかおもしろく、知りたい項目以外のページもついつい読んでしまいました。「へ~なるほど!」と何度つぶやいたことでしょう。

自分が知りたいこと以外の項目も目に入るのは、紙の辞書ならではのよさですよね。調べ物はサーチエンジンに頼ってばかりだったのですが、書き起こし作業をきっかけに、思いがけず紙辞書の魅力を再発見することができました。

ところで「音声の書き起こし」と言えば――伊丹さんは「聞き書き」の名手でもありました。

取材で得た人々の肉声をたくみに文章化していく手法は、『小説より奇なり』や『日本世間噺体系』といった著書でお楽しみいただけます(残念ながら『小説より奇なり』は絶版です)。

聞き書きならではの臨場感、おもしろいですよ。

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【『小説より奇なり』の装幀ラフデザイン】


『小説より奇なり』は、装幀にもご注目を。旧漢字を駆使したデザインで、伊丹さんの漢字・ことばへのこだわりがいっぱいです。直筆ラフデザインを常設展に展示しておりますので、是非ご覧くださいませ。

スタッフ:淺野