こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2013.02.11 伊丹さんの笑顔の写真
突然ですが、私が伊丹さんの写真の中で一番好きな写真をご紹介します。
「伊丹十三の本」の表紙にもなっている、写真家の浅井慎平さんが撮影された、伊丹さんとびきり笑顔のこちらの写真です。
伊丹さんは著書「女たちよ!男たちよ!子供たちよ!」の中でカメラマンに関して「写真の仕事をする人には意外に精神の硬直した人が多い」とか「実力のない者に限って注文が多い」とか結構辛い評価をしています。
たとえば、自宅での撮影の際には、散らかった机の上の書物を小綺麗に片付けたり、持参したバラを活けたりした上に、伊丹さんや家族にポーズや目線だけでなく、「向うの山の方でも指さしてください」などとまで指示してくるカメラマンがいたそうです。
彼らには「仕事のできない顔」がついているので、顔を見ただけでそれとわかるということを言っています。そんなカメラマンの注文には一切応じないことに決めたそうです。その理由は、そんな人とつきあうには、人生はあまりにも短いからだそうです。...。
そんなふうにカメラマンに対して辛口の伊丹さんではありますが、同著の中で浅井慎平さんのことは「尊敬するカメラマン」であると記しています。浅井慎平さん自身も、伊丹さん亡きあとのインタビューの中で、伊丹さん自身から浅井さんの写真について「浅井慎平の写真だからいい」と言われたことがあるとおっしゃっています。浅井さんという人間が撮ったのだから、いいに決まっている、という理論だそうです。浅井さんのことをすごく好きだったんだろうというのは他のインタビューなんかからも伝わってきます。例えば、六、七人のクルーでロケに行ったとき、浅井さんだけに持参したメザシを差し出して、無邪気に「シンペイさん、二人で食べよう」と言ってきたというエピソードなんかがあります。(浅井さんは他の人のことが気になって仕方なかったそうです。)
そんなふうに大好きだった浅井さんの前だからこそ、この写真のとびきりの笑顔が出たんだと思うと、納得です。
さてこの写真、伊丹十三記念館では展示室へ入ってすぐのところに展示しています。展示室へ入る自動扉は「すりガラス」になっていますが、よ~く見てみると、真ん中にすりガラスの加工が無い部分があり、そこから展示室の中が見えるようになっています。
正面から見ると、その部分からちょうど、この伊丹さんの笑顔の写真が見えるようになっています。
「記念館」というところに来て少し気構えている気持ちをホッと和ませてくれる、とてもいい写真だと思いますので、ご来館の際はこちらの写真の伊丹さんにお出迎えされて、リラックスした気持ちで中の展示をご覧頂けると幸いです。
スタッフ:川又
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