記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2013.01.14 ペットと気持ちが通じ合うとき

今年に入ってはや2週間が過ぎましたが、みなさまお正月はどのように過ごされましたでしょうか。記念館は帰省やご旅行のお客様がたくさんご来館され、例年同様賑やかなお正月となりました。2013年も伊丹十三記念館をどうぞ宜しくお願い致します。

さて、伊丹さんは無類の猫好きということで多くの猫の絵や、猫に関するエッセイをのこしています。その中でエッセイ「再び女たちよ!」に以下のような文章があります。
 
「自分が構ってもらえない時、つまり、一人で二日間も無人の家に置いてけぼりにされたような時、立った腹の持って行きどころが無くてそういうことをやる。明らかに腹いせである。
 私たちが帰ってきても出迎えにもこない。呼んでも返事もせずに不貞寝をしている。
 こういう時にはこちらも陰険な手段を用いて復讐する。つまり架空の猫を登場させるのである。架空の猫にはシロネという名がついているが、(これは黄金丸に対する白銀丸の訛ったものである)架空の猫であるから姿も形もありはしない。
 この架空の猫に呼びかけたり賞めたりするのである。不貞寝をしているコガネ丸に聞こえるように大声で賞める。
 「シロネ、ハイ、お手は?ハイ、お手!うわあ、えらいねえ!ハイ、次コロリ!コロリは?えらいねえ!うわあ、シロネはえらいねえ!」
 だいたいこの辺で、コガネ丸は耐えかねて釣り出されてくる。そうして、注文もされぬのに自発的にコロリをやってみせたりする。こうしてわれわれは和解するのである。」

—エッセイ「再び女たちよ!」猫—

普通に考えると「猫は不貞寝とかそこまで考えていないんじゃ...」と思いそうですが、多分コガネ丸は伊丹さんの推測通りの思考をしていたのではないかと思うのです。といいますのも、私は猫を飼ったことがないものの、その昔犬を飼っていまして、この文章を読むと思い出すことがあります。

散歩中なんかに首輪や鎖が外れると、飼い犬は必ず逃げ出すのですが、あえて遠くには行かず、さも「捕まえられるものなら捕まえてみやがれっ」てな感じの雰囲気を出しながら私の近くをウロウロします。
で、私が追いかけると調子に乗って逃げるのですが、こちらが無視して家に向かって歩き出すと、あわてて後ろから走って追いかけて来て、わざと私にぶつかってそのまま数メートル先まで走り、後ろを振り返って、「どうだ!捕まえられないだろう!」と言いたげな顔をしてこちらを見てきます。
で、捕まえようとするとまた逃げて、それを繰り返しながら家に着くのですが、餌をやると餌に夢中になるので、その隙に捕まえる、ということをいつもしていました。

伊丹さんの愛猫との文章を読むと、なぜだかそんな一連のやり取りを思い出すのです。(話がだいぶ違うので一緒にすると伊丹さんにもコガネ丸に悪い気がしますが、なぜだか思い出すのです。)
飼い犬と話したことはないので、本当にそう思っていたか確認はしていませんが、飼い犬の思考は私の推測する通りで間違いなかったと思われます。あの振り返って私を見る顔は今考えても人をおちょくっていました。忘れられません。

それはさておき、伊丹さんのエッセイには上記のほかにも猫の思考回路を詳しく書いたものがあります。ぜひ読んでみていただいて、猫を飼っている方、猫でなくてもペットを飼っている方に「わかるわ~、そういうことするする!」と共感していただきたいと思います。ぜひどうぞ。はがき12.jpg

【画像:記念館で販売しているポストカードです。コガネ丸と伊丹さんがじゃれ合っています。】

スタッフ:川又