こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2012.06.04 自然について
記念館では毎日開館前にスタッフ総出で掃除や準備を行います。先日外の庭の掃除をしているとスズメより少し大きいくらいの鳥の死骸が落ちていました。
記念館は川の近くだからなのか(?)日常的にいろいろと動物や昆虫がうろうろしています。これまでも亀やら何やらの死骸が転がっていたこともありましたが鳥は初めてでした。仕事でなければ正直走って逃げ出すところですが、開館前にどうにかせねば!と紙を上からかけて「火ばさみ」ではさみ、運びました。「火ばさみ」の間から鳥が転げ落ちたりします。まともに見ることすらできませんでしたが、なんとか運びだし、埋葬しました。
話は変わりますが、焼き鳥は好きですか。お店に行くと一口大になった鶏肉が葱と交互に串にささっていたりして、甘辛いタレがついたり塩がふりかかったりして、出てきます。焼き鳥ができる工程のイメージは正直な感覚で言うと、工場で小麦粉的なものに魔法の粉的な何かを混ぜて、水を入れて練って機械からポンポン発生してできているような、とてつもなく不自然なイメージを持っています。鶏をさばいているところを想像しては焼き鳥など食べられませんから勝手に自分の中で都合のよいように変換しているのでしょうか。実際に鶏をさばいているところを見たことがないからでしょうか。自分でもよくわかりません。
自分が想像している焼き鳥のできる工程のほうがよほど不自然なことにも関わらず、死んだ鳥を見るという「自然界の中でごく自然なこと」に対して取り乱したりして、自然界からすっかりかけ離れてしまっている自分の感覚に驚くばかりです。
子供の頃、都会の子供が生きているカブトムシを分解して「電池が入っていない」と言ったという話を聞いて(今考えるとこの話は本当なのでしょうか?)「最近の子供は!」と驚き呆れていましたが、大人になるにつれて自分もその都会の子供と大差はないな~と実感しています。
さて、伊丹さんのエッセイの中で「死教育」というエッセイがあります。伊丹さんの愛猫の「コガネマル」が死んだことで、幼い息子にどう死を伝えるかという事を悩んでいたようです。家族で庭の梅の木の下に「コガ」を埋めたそうですが、私も鳥を埋葬しながらこのエッセイのことを思い出しました。このエッセイはもともとは伊丹さんの著書「女たちよ!男たちよ!子供たちよ!」(文藝春秋)に掲載されたものです。一部ご紹介いたしますのでよろしければご一読下さい。
「死教育」 女たちよ!男たちよ!子どもたちよ! 伊丹十三著
~略~
これは、私の子供が生まれて初めて直面した死の実相というものだったわけですね。このあと、子供の話の中にやたらとコガの死、あるいは、死一般についての質問が多くなり始めた。
~略~
「死ぬとどうなりますか、トオチャン」
「それは判らない」
「どうして判らないんですか?」
「それはね、死ぬと他の世界へ行っちゃうだろ。ところがその世界からこっちの世界へ帰ってきた人がいないから判らないんだ」
「世界ってなんですか?」
「世界?−ウーン、世界っていうのは世間というか−そうだねえ、世の中というか−お前、世の中って判るか?」
「判りますよ。あのね、真っ暗なの、ヤミですね」
「それは世の中じゃなくて夜中なんだよ。ウーン、弱ったな。じゃあね、死ぬとね、みんな原子になるんだ」
「動けますか、それは?」
「動けるよ。お前もトウチャンも原子になって宇宙の名を飛びまわるんだ」
こんな説明で納得するわけがない。今日も子供は「ボクは死ぬのいやだ」と叫んでいる。
「トオチャン、死なない薬を発明してください。死なない薬はどうやって作ればいいんですか。野菜とあと何を入れればいいですか?」
と叫んでいる。
「死教育」はいかにあるべきか。これが私の現在の悩みである。
【画像左が伊丹十三著 「女たちよ!男たちよ!子供たちよ!」(文藝春秋)。現在絶版。右の松田哲夫氏編「中学生までに読んでおきたい哲学6 死をみつめて」(あすなろ書房)は今年5月に刊行された本でこの「死教育」のエッセイが全文掲載されています。他にも著名人の「死」に関するエッセイが多数掲載されています。】
スタッフ:川又
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