こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。
2011.07.17 望郷
暑中お見舞い申しあげます。ほんとうにお見舞い申しあげます。「松山に住んで4度目の夏ともなるとだいぶ慣れるもんだなぁ」と思っていましたが、どうも勘違いだったようで。油断した分、例年以上にバテバテで食欲減退さらにバテバテの中野でございます。岩手県出身でございます。
しかし、生きてお仕事するためには食べねばなりません。「いずーたででけーよ」という父のことばを思い出しながら、気合いで台所に立ったり(立たなかったり=買ったもので済ませたり)しております。
あ、「いずーたででけーよ」というのは、「意地(いず)を(ー)立てて(たでで)食え(けー)よ」という意味のわが故郷のことばであります。「食欲がないなどと言っている場合じゃありませんよ、食べないと体がもちませんよ、働けませんよ、働けないのはカッコワルいことですよ」。働く男の思想が如実にあらわれている、カッコイイことばだと思います。
というわけで「いずーたででけーよ」、「わがったーでば、くーでば」などと小芝居気味にひとりごとを言いながら食欲を奮い立たせることがしばしばあるのですが、そんなことをしておりますと、故郷が恋しくなり、伊丹万作のこんな詩を思い出すのです。
望郷
クニヘ帰ロウ
夏ハ
砂浜ノ近クニ小サイ家ヲ借リ
朝夕
子供タチガ
波トタワムレル姿ヲ見ヨウ
クニヘ帰ロウ
秋ハ
空ユク雲ヲナガメ
風ノ音ヲ聞キ
ワズカナ田カラトレル
銀色ノ米ヲ食オウ
クニヘ帰ロウ
冬ハ
イキタサカナヲ食イ
ツメタイ空気ヲ
肺一パイニ吸イ
古イ友ダチト
ホラヲ吹キアツテハ
ケラケラト笑オウ
クニヘ帰ロウ
春ハ
舌ノ上デトケルヨウナ
ソラ豆ヲ食イ
風ノナイ日ハ
静臥イスヲ庭ニ出シテ
ヒネモストロトロト眠ロウ
結核にたおれ京都で寝たきりの生活を送りながら松山の風土や人々を思う、万作さんの純な郷土愛に心を打たれます。(こんなにもストレートに郷土愛を表現できる人ってなかなかいませんよね。)
万作さんは海水浴やボートなど、海での遊びが大好きで、松山に住んでいた若い頃は梅津寺あたりで泳いだりボートに乗ったりしたそうです。病気にかかってわが子を泳ぎに連れて行くことができず、どんなにか辛かったことでしょう。
私も父母に海水浴に連れて行ってもらったことが何度もありますが、とても幸せな思い出です。(その割には長らくカナヅチでしたけど。)
今日は海の日。津波で海に傷つけられ、原発事故で海を傷つけている日本ですが、日本中のチビっ子たちが海水浴を楽しみ、海から多くを学べる日が早く戻りますように。
まっちゃまの海であります
(去年の9月の写真ですみません...)
学芸員:中野(去年の9月の写真ですみません...)
※今回ご紹介した「望郷」は、復刊されている『伊丹万作エッセイ集』(ちくま学芸文庫)には収録されていません。(現在絶版の『静臥後記』、『伊丹万作全集』第1巻に収められています。)
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