記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2009.04.20 金田さんありがとう

あげまんヨコ.JPG3月31日、俳優の金田龍之介さんが亡くなりました。
金田さんは、舞台、映画、テレビドラマで幅広くご活躍なさいました。伊丹映画では『あげまん』(1990年)、『スーパーの女』(1996年)に出演しています。
金田さんの演じた役では『あげまん』の多聞院がお気に入りの私、訃報に接して第一に思い浮かんだのは、多聞院の絶妙な表情の数々でした。多聞院は冒頭だけの登場ですが、金田さんの存在感でとても印象的なキャラクターになっています。弱りきった顔つきで、「そういうことはね、ナヨコちゃん、年寄りには言っちゃいけないんだよ」と諭すところなんて、切なくて可笑しくて悲しくて、名演技でした。すばらしい俳優がこの世を去って、淋しい限りです。

金田さんの亡くなる少し前、BSで放送されたグレゴリー・ペックの番組を偶然に観ました。ペックが各地で講演会を開き、観客の質問を受けながら自らの経験を語る、というものでした。
たしか、ロサンゼルスでの講演のときだったと思います。街の公園をペックが散歩していると、向こうからきたひとりのおじさんがペックに話しかけました。「あなたの仕事に感謝しています。たくさん楽しませていただきました」。私はちょっとギョっとしました。日本語ではそういう表現はあまりしないということもありますが、「俳優の仕事に感謝する」という感覚がとても新鮮に思えたのです。ペックの話に負けず劣らず、このおじさんのひとことも心に残りました。

世の中には尊い仕事はたくさんありますが、人を楽しませるということも、本当に尊い仕事です。そういう仕事をしている人は少なくないのに、正当に評価されている人はあまり多くないかもしれません。

そんなことを考えていた頃だったので、「ああ、金田さんにも感謝しなくちゃ」と思いました。私があの世に行ったときには、お礼を言ってまわらないといけないエンターテイナーがたくさんいるので、早くも先が思いやられます。

お別れは淋しいですが、映画では何度でも再会することができます。そこが映画のすばらしいところなんですよね。

 

写真右:本編DVD『あげまん』/写真左:メイキングDVD『あげまん 可愛い女の演出術』

 

学芸員:中野