記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2009.01.30 『マルサの女がマルサを語る』レポート

手前から、玉置さん、宮本さん、斉藤さん.JPG 1月24日、『マルサの女』上映会とトークショーを行いました。2007年秋の『お葬式』上映会以来の企画展関連イベント、題して『マルサの女がマルサを語る』です。

 伊丹十三監督作品は、すべてDVD化されていますが、やはりフィルムでの上映はひと味もふた味も違いますね。

 上映会場をホンのちょっぴり覗いて、小さなテレビ画面で観るときとのスケールやテンポの違いもさることながら、音の奥行きにはあらためて感心しました。家の上空をヘリコプターが飛んでいる、窓の外で鳥が鳴いている...そんな音の距離感や方向が、フィルム上映ではありありと分かるのですね。映画の音声というのは、フィルムの端っこに白い波模様の線(これを「オプティカル・サウンドトラック」といいます)で記録されているんですが、イヤハヤ、あなどれません、波模様。

 さて、続くトークショーのゲストは主演女優の宮本信子さんと税理士の斉藤和子さん、聞き手は伊丹プロダクション社長の玉置泰さん。
 斉藤さんは、税務署でのお勤めを長く続けていらした方で、上席国税調査官、特別国税調査官、税務署長もお務めになったバリバリの税のプロです。斉藤さんが浅草税務署に勤務なさっていた1986年、税のプロを演じることになった宮本さんに取材を受けたときのことをお話しいただきました。(宮本さんは、『マルサの女』の撮影が始まる前、税務署で働く人たちの雰囲気をつかむために、2週間、浅草税務署へ通ったのだそうです。)
 斉藤さんからは、机の引き出しの中も「取材」されたこと、灰皿の中の吸殻を「今日は何本ね」と数えられたこと、プロと同じスピードで伝票をめくる練習を毎日続けたと聞いて感心したこと、などなど、宮本さんの好奇心の強さと女優としての陰の努力が語られました。
 宮本さんからは、斉藤さんのお顔が数字を見るときにはガラリと変わることなど、プロの世界を目の当たりにしたというお話も。

 誰かの仕事場に行ってその様子を観察するなんて、お願いしたからといって簡単に出来ることではありません。宮本さんの演技にかける情熱が税に関わる方々の心を動かし、また、国税関係者のみなさんが深いご理解をお持ちになったから、可能になった取材だったのだと思います。

 『マルサの女』での演技が高く評価された宮本さんは多くの賞をお受けになりましたが、日本アカデミー賞の授賞式で、喜びのことばではなく、協力者への感謝のことばを述べてらっしゃったのが強く印象に残っています。『マルサの女』には、実に多くの「その道」の方がご協力なさっています。すでに亡くなられた方も多くいらっしゃいますが、きっと、お仕事ぶりも気風もすばらし翌日、記念館にて.JPGい方ばかりだったんだろうな、と宮本さんと斉藤さんのお話を聞いて感じました。よいお話をお聞かせくださってありがとうございました。
 そして、寒い寒い中、会場へお運びくださったお客様、ご取材の皆様、ご協力くださったシネマサンシャインの皆様にも、あらためてお礼申しあげます。ありがとうございました。

学芸員:中野