記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2008.10.10 31歳

 あんなに暑かった夏も過ぎ、キンモクセイの香りが街に漂う秋、お布団から脱け出すのに気合いの要る季節になりました。

 とはいえ、日が照ると汗ばむほどの陽気になることもある松山。何を隠そう(いえ、隠すほどのことではありませんが)みちのく岩手で生まれ育った私にとって、このくらいはまだ夏のうち。「松山の気候なら、窓全開で12月まで半袖で過ごせる!」などと方々に豪語していた矢先、スタッフの中の誰よりも先に風邪を引いてしまいました。
 風邪が治りにくくなったのは、加齢のせいもあるのでしょうか。

 ワタクシゴトではありますが、夏の間にひとつ年を取りまして、31歳になりました。
 伊丹さんは31歳の頃はどんなことをしていたのかしら、という思いで年譜をくってみますと...

 1964年11月、出演映画『執炎』封切り

 『北京の55日』、『ロード・ジム』と外国映画に立て続けに出演した後の、帰国第1作です。

 それから、何と言っても...

 1965年3月、『ヨーロッパ退屈日記』、文藝春秋社より刊行

 『ヨーロッパ退屈日記』は『洋酒天国』などに掲載されたエッセイを単行本にまとめた、伊丹さんの処女作です。31歳は、伊丹さんにとっても、伊丹ファンにとってもメモリアルな1年だったと言えますね。
 それにしても、なんという31歳でしょうか。同じ31歳の私は、『ヨーロッパ退屈日記』を読んで、高校生だった伊丹さんがランボーの詩集を読んだときと(おそらく)同じ気持ちを抱くのであります。

 話はかわりますが、久万美術館での『万作と草田男—「楽天」の絆』という展覧会に、当館の所蔵資料が「出張」しています。参観日の母の気分でドキドキしながら会場にお邪魔しましたら、素晴らしい展覧会でした。(今回初めて伺ったんですが、久万美術館は建物も景色も素敵なところです。写真を撮ってくればよかったですね!)

 この展覧会では、旧制松山中学の仲間たちの回覧雑誌『楽天』を通じて知り合った伊丹万作と中村草田男の交流と仕事が、94点の資料を通じて紹介されています。
 会場では、伊丹万作の監督作品『花火』や『国士無双』の一部、脚本作品の『無法松の一生』の検閲でカットされた部分も観ることができます。そういえば、『花火』も万作さん31歳のときの作品です。

 展覧会は11月24日(月・祝)まで、10月11日(土)、25日(土)、11月15日(土)には、「国士無双」の上映会も開催されます。皆様、ぜひ足を運んでみてください。じっくり観るほどに興味深い展示なので、時間をたっぷり取ってお出かけになることをおすすめします。

 万作さんも十三さんも、30歳以降も研鑚を続け、素晴らしい仕事を残した方です。
 不肖ナカノも、及ばずながらボサっとは生きられないなぁ、老けていくだけじゃいけないなぁ、と咳をしながら感じた31歳の秋でした。食欲だけはあるんですけどね...。


久万美術館2008年度自主企画展 ≪開館20周年記念≫
万作と草田男—「楽天」の絆
会期 2008年10月4日(土)?11月24日(日)
開館時間 午前9時30分?午後5時
期間中の休館日 10月6日(月)、14日(火)、20日(月)、27日(月)
11月4日(火)、10日(月)、17日(月)
詳細は久万美術館ホームページをご覧ください


学芸員:中野