記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2008.02.21 精神分析啓蒙家としての伊丹十三

20080221a.jpg 記念館では、伊丹十三の仕事を13のカテゴリーに分けて常設展示しています。少年時代から映画監督に至るまで、伊丹十三の仕事は多岐にわたりますが、当館にいらっしゃるお客様の中でも"玄人筋"に受けが良いのが、精神分析啓蒙家の展示箇所です。
 自分のこれまでのキャリアの集大成が映画監督としての仕事であると伊丹十三は述べていますが、映画に携わる前のキャリアを大きく分類してみると、テレビやCMなど映像メディアにおける仕事と、商業デザイナー、イラストレーター、エッセイストなど出版媒体における仕事に区分することが出来ます。その中でも精神分析に関する仕事は、伊丹十三の出版における仕事の集大成と言えるかもしれません。
 岸田秀『ものぐさ精神分析』に影響を受けて以来、伊丹十三は精神分析に傾倒していくことになります。その傾向は、映画監督になった後の1990年に『倒錯 幼女連続殺人事件と妄想の時代』(岸田氏、福島章氏との鼎談)を出版していることからも明らかです。
 『モノンクル』は"伊丹十三責任編集"と銘打った精神分析についての雑誌です。赤瀬川源平、寺山修司、糸井重里など、若手から中堅まで実力派の執筆陣を揃えた豪華メンバーの共演に加え、伊丹十三自身が用いてきた話し言葉の文体、聞き書きスタイルを中心に構成された画期的な出版物だと言えます。企画内容も時事問題から夢の分析、映画評論まで、ジャンルに捉われることなく知的刺激に満ち溢れています。しかし、当時(1981年)は精神分析についての理解が現在ほど一般化していなかったためか、惜しむらくも第六巻で廃刊になってしまいました。
 当館の精神分析のコーナーでは、伊丹十三が岸田秀との対談を自身で文字に起こした肉筆原稿が展示してあります。伊丹十三が情熱を注いだ一端を是非ご覧下さい。

学芸員:浅利浩之