記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2022.09.26 UDCMスマートシティスクールに参加させていただきました

皆様、どうもこんにちは。しばらくぶりに記念館便りを担当させていただきます、中野です。
わけあってご無沙汰いたしましたが、またたびたび登場させていただきますので、よろしくお願いいたします。

20220926_1.JPG2022年9月22日(木)夕暮れ時の記念館。
虹がウッスラと出ているの、見えますか?

さて、少し前のことになりますが、松山アーバンデザインセンターの講座に、トークゲストとして参加させていただきました。

松山アーバンデザインセンター、略してUDCM。
ヨコ文字が物々しく思われる名称ですが、その活動内容は、松山市内や愛媛県内にお住まいの方であれば、何かしらご存知のはず。
たとえば、「老若男女のための広場がマチナカにできて、子連れ家族にも好評」「気軽に腰掛けられる憩いのスペースが商店街にできた」「花園町通り(松山市駅前から堀端までの商店街)が快適になった」といったニュースを見聞きした、あるいは、実際に利用して街の変化を体感した、ということが、きっとおありだと思います。

UDCMの活動の中には「参加型のまちづくり学習プログラム」も含まれていまして、"スマートシティスクール"という講座が年度ごとにテーマを変えて開かれています。
今年度のテーマは「地域ミュージアムを創る」だそうで、4回行われるレクチャーのうちの3回目に、市内の博物館3館の学芸員がトークゲストとして呼ばれたわけですが――

――"アーバン"..."デザイン"..."スマート"...どれにも縁遠い自分に務まるのか、大いなる不安を抱きつつ、光栄なご依頼だとお受けすることにしましたら、頂戴したお題のひとつがすごかった。

「学芸員としての日頃のお仕事は?」

え~っと、「学芸員として」ですか......あれ? いつも何してたっけ、私。(他のゲストの方も同じことを思ったそうで、後で聞いて笑いました。)
シンプルかつストレートに本質を問われた感じで、一瞬、ポカンとしてしまったのです。

ひとことで言えば、学芸員とは「博物館の専門職員」なのですが、「博物館」(の定義)も多様化の時代にある現状もあいまって、「学芸員のお仕事って何だ」「そもそも博物館とは」という問いが、頭の中にぐるぐると渦巻きました。
結局、当日は「収蔵・展示の環境の保全」「館にあるもの(収蔵品)の調査」「館にないもので収蔵すべきものの探訪・収集」「勉強」といったような、ひととおりの事柄をとにかく一生懸命お話しするに留まりましたけれど、他館の学芸員の方のお話も大変参考になり、「"伊丹十三記念館の学芸員"の特徴を挙げるならば、お客様方に接して学ばせていただくことがたくさんあって、それがその後の仕事の肥やしになっている、ということだなぁ」と、来し方のあれこれが感慨深く思い返されたことでした。
そして、今さらながら浮き彫りになった"問い"については、長期的な課題として今後も考え続けていきたいと思いました。

と、いうような得難い経験をさせていただいて数日後。

展示室の見回りをしていましたら、とあるお客様からお声をかけていただきました。
「私、伊丹さんの映画は何本か観ていて、映画監督としてのお姿が印象に残っているんですけど、そのほかのことはよく知らなくて......本当にいろいろなさった方だったんですねえ、ビックリしました。あ、私が勉強不足なだけなのに、ビックリだなんてすみません!」

20220926_2.JPG子どもの頃からコレですものね...
(小学6年生のときのノート『昆蟲』)
そりゃ、ビックリなさって当然だと思います。

それを伺った私の口からは、ほぼ無意識のうちに、フォローのつもりでも何でもなく、こんな言葉が出ていました。
「いいんですいいんです、ビックリしていただくための記念館ですから」

Q. 博物館とは何か
A. ビックリする場である

――うーむ、なかなか、イイのではないでしょうか??

またもや、お客様から学ばせていただきました。
今後ともどうぞよろしくお願い申しあげます。

20220926_3.JPG企画展示室・併設小企画『伊丹万作の人と仕事』コーナーの
「手作り芭蕉かるた」は秋の句の札を展示中です。
行く秋や 手をひろげたる 栗のいが ―― 皆様、よい秋を!

学芸員:中野

2022.09.19 第14回伊丹十三賞の贈呈式を開催いたしました【その2】

先週に引き続きまして、贈呈式の模様をお伝えいたします。

 

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選考委員である中村好文さんの素晴らしい祝辞に続きまして、正賞の盾と、副賞の賞金100万円の贈呈が行われました。

 

正賞(盾)の贈呈 選考委員・平松洋子さんより

 

 

s-IMG_2778.jpg平松洋子さんからは贈呈と共に

「小池一子さん。長きに渡って、たくさんの才能そして

みんなを照らしてくださってありがとうございます」

というお言葉もございました。

 

 

 

副賞(賞金)の贈呈 宮本信子館長より

 

 

s-DSC_3416.jpg「おめでとうございます」「ありがとうございます」と

言葉を交わしている小池一子さんと宮本信子館長【※】

 

 

 

そして、受賞者・小池一子さんのスピーチです!

 

受賞者・小池一子さんのスピーチ

 

 

s-IMG_2803.jpg受賞者スピーチをする小池一子さん

 

 

● 伊丹十三賞の受賞の連絡を受けたときのこと

この賞のお知らせを頂いたときに、はっと思って、まず選考委員の方たちのお顔を本当にはっきり思い浮かべました。で、伸坊さんとか、好文さんとかって、ファーストネームで呼ばせていただく大事な友達、お知り合いといいますか、私が尊敬する方たち。それからずっと素敵で、拝見している宮本さん。映画で本当に私の憧れの監督の周防さん。そういう方たちが、何をやっているのかが分かんないような私の仕事に目を向けてくだすったっていうことが、本当に有難くて。しばらく5人の方のお顔を想っていたんですね。

それから、頂いた理由というのが、続けてきた仕事。もうあっという間に半世紀も、それ以上経っちゃっておりますけれども。その中で一緒に仕事をして来た人たちの顔、それがまた、わーっと浮かんできて、しばらく呆然とした時間がありました。その方たちへの感謝っていうのを、表現しきれないぐらい仕事の中でいろんな時間を過ごさせていただいたっていうふうに思っています。

 

 

s-DSC_3453.jpg受賞者スピーチをする小池一子さん【※】

 

 

● キュレーターという仕事

表現したいっていうことは誰にでもあると思うんですけど。私、子供の時に自分は絵が描けないっていう、すごいトラウマを持った子だったんですよね。姉たちがすごくうまく描けるのに、私は、それがうまいと思う絵のようなものが描けないっていうことがあって。

でも、その、なにしろビジュアルな表現っていうものですね、絵とか、アート、デザイン。芸術のすごいものとか...そういうものに憧れていたので。

中学の時に、素敵な日本画の先生だったんですけど。美術の先生がいらして、その方とお話をするのが好きだったんですよ。それでみんなは描いているんだけど私は描かないでいて、それで先生も本当にうんうんって良く聞いてくださるし、返事もしてくださって。

それであるとき、ちょっと明治神宮の菖蒲園に、素晴らしい菖蒲が咲きそろったから、「これはスケッチ旅行で、みんなで行きたいんですけど」と言ったら、「いいんじゃない」っておっしゃって。それで、じゃあ企画させてくださいって言って、あるスケッチ旅行を、旅行というか、経堂の学校でしたから。小さな女学校なんですけど、スケッチ旅行をしたんですね。私はその時、みんなの時間を聞くとか用意をしていましたけど......、描けるんですよ。

それで、みんなの絵を持って帰って。その時の期末の成績簿に、美術の項目に5かなんかあって、わあ!っと思って。

私は好きな、憧れている世界にいまアプローチして良いのかと思って。

なぜキュレーターの仕事をしているかって言われたときには割合話すエピソードなんですけれども。

そんなようなことで、憧れているものに近づく方法っていうのはいろいろあるんだなぁ、と思ってきました。

アーティスト、アートディレクター、デザイナー......そうゆうビジュアル表現をなさる方への憧れっていうのは一番、自分が世界中で一番強いと思っているんですけれども、その方たちと仕事ができるんだっていうことがここまで来た一つの理由だと思います。

 

 

s-DSC_3479.jpg受賞者スピーチをする小池一子さん【※】

 

 

● 真昼の月

アーティスト・デザイナーは太陽。私は昼間の空に白く浮かんでいる月みたいなもんだなぁ、なんて。そんなことを言うのもおかしいんですけども思っています。

ただ、月には星がいっぱい周りにいるんですよね。太陽はひとりぼっちで。で、私は月もいいなぁなんて思っています。

私は、私の星の何人かの方たち、ここに来てくださってて、本当に嬉しいんですね。みんなまだ仕事をしている人たちなので、ウェビナーで見てくれるっていうこともあるんですけれども、本当に支えていただいてありがとうございましたっていう事を申し上げたいんです。

 

● 太陽のひとり、三宅一生さん

紙に書いてあるのはここまでなんですけれども、控室で平松洋子さんとお話してて、この服の話になったんですよ。これ、黒ですけど。ひとつ、私の太陽であった三宅一生さんが亡くなってしまって、喪の意味もあるんですね。コロナになって人が会えなくなって、だから三宅さんにもなんか電話ばっかり話してて会えてなかったので、あんまり他界されたって実感がなくて。で、いまもどこか地上にいるんでまた電話で話せるなんて思うようにしているんですけれども。

今日、こういう素晴らしい賞をいただくということになって。で、三宅さんの一番若手のチームの方たちが、この服、去年、この前のコレクションで発表されたパリコレクションで、その中の1点なんですね。これ、セパレーツなんです。下にジーンズはいているんですけど。そういうような素敵な贈り物をくださったので。

私の大好きなSFの作家のカート・ヴォネガットが、日本にアートディレクターズクラブの招待で来たんですよ。そしたら天に向かって「お父さ~ん!僕は日本のデザイナーたちに招かれて東京まで来ちゃったよ!」って大きな声で空に向かって言ったので、私もちょっと「一生さん!こんな若い人たちの仕事を残していただいているから私は大丈夫!」っていうことを言いたいなぁなんて思います。(場内拍手)

 

 

s-IMG_3147.jpg「紙に書いてあります」とおっしゃいながらも、

ほとんどご覧にならず、笑顔で会場の皆さまを見つめておられました

 

 

本当に今日はありがとうございました。

なんとも言葉が足りないぐらい大好きな4人の選考委員と宮本館長の賞でいただけたことを光栄に思います。(場内拍手)

ありがとうございました。

 

 

宮本信子館長のご挨拶

 

今日、この会場にいらしていただいておりますお客様。

そして、ウェビナーっていうんですか、なんていうんですか。リモートじゃないんですよね。そういうところで見ていただいているお客様、本当にありがとうございます。

そして小池さん、本当に...いえいえ、お座りになってください!

 

 

s-DSC_3496.jpg「お座りになってください!」「ハグしたいです!」「私もしたいです!」と

ハグが出来ない代わりに手を取り合おうとしている小池一子さんと宮本信子館長

 

 

ハグしたいと言って、二人で言っております。(場内笑い)本当におめでとうございます。

 

先日、古いむかしむかしの対談で、『感性時代』という雑誌で、伊丹さんと小池さんが対談をしてらっしゃいました、それを私、読ませていただきました。

もう本当になんか丁々発止って、打てば響くって...さっき中村さんも仰いましたけれども、そういう対談で。その楽しい会話がすっごいリズムを作っていて、うわぁ!すごいなぁ!って感動したことでした。本当にそれは私としては嬉しかったです。

 

 

s-IMG_3177.jpgご挨拶をする宮本信子館長

 

 

そんな小池さん、これからもどうぞお身体大切になさって。そしてものすごく、もっともっと前に...もっともっと、月に向かって!(場内笑い)活躍していただいて、そして私たちを導いていただけたらどんなに良いことだろうと思っております。

本当に今日はおめでとうございました!(場内拍手)

 

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以上、贈呈式の様子をご紹介させていただきました。

 

小池一子さんのスピーチはいかがでしたでしょうか。

とても大きな喜びと感謝の思いがこもったスピーチに、ご来場の皆さまが聞き入っていらっしゃったのが心に残っております。歓談のお時間の間、小池さんと言葉を交わしている方は皆さま素敵な笑顔で、小池さんを中心に笑顔の輪が広がっているようでした。中村好文さんが祝辞でもおっしゃっていたように、小池さんの笑顔が人と人とをつないでいるのだと感じた贈呈式となりました。

 

 

s-DSC_3608.jpg皆さま、明るい笑顔の集合写真【※】

 

 

 

前回に引き続き、残念ながら祝賀パーティーを行うことは出来なかったのですが、ノンアルコールのお飲み物をご提供させていただき、歓談のお時間を取ることが出来ました。全て、関わってくださった方々の御協力によるものです。皆さまのお力により、和やかな雰囲気で式典を開催することが出来ました。

小池さん、選考委員の皆さま、ご来場くださった皆さま、ウェビナーにてご覧になってくださった皆さま、関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

 

ぜひ、今もなおアートやファッション、広告など様々な領域で最前線に立っておられる小池一子さんのお仕事に触れていただき、広がる出会いを楽しんでいただけましたら幸いです。

 

今後とも伊丹十三賞そして伊丹十三記念館をよろしくお願いいたします。

 

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【※】の写真は、撮影:池田晶紀さん(株式会社ゆかい)、

撮影協力:株式会社ほぼ日のみなさんです。

 

スタッフ:橘

2022.09.12 第14回伊丹十三賞の贈呈式を開催いたしました【その1】

メディアなどで目にされた方がおられるかもしれませんが、9月5日(月)、東京都港区六本木の国際文化会館におきまして、第14回伊丹十三賞の贈呈式が行われました。

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小池一子さんと選考委員4名と宮本信子館長【※】

このたび伊丹十三賞を受賞されたのは、クリエイティブ・ディレクターとしてご活躍中の小池一子(こいけ かずこ)さん。 


s_award2022_sample.jpg撮影:藤塚光政



記念館便りでは、今週と次週の2回に分けて式の模様をレポートさせていただきます!

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昨年に続きコロナ禍での開催ということで、zoomウェビナーでのオンライン中継も行われた今回の贈呈式。
やや心配された天候も、当日はこのとおり、青空が広がる良いお天気となりました。

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庭園にて

式典は主催者挨拶からはじまり、受賞者小池さん、4名の伊丹十三賞選考委員、宮本信子館長の紹介が行われたのち、選考委員のおひとり・中村好文さんから祝辞が贈られました。

祝辞 選考委員・中村好文さん

小池一子さん、この度は第14回伊丹十三賞受賞おめでとうございます。

----ここまでしか覚えてないので(笑)、(この後は用意した祝辞を)読ませていただきます。

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祝辞を述べられる中村好文選考委員

伊丹十三賞は、これまでに13人の受賞者がいらっしゃいますが、小池さんはその中でも一番年上で、年齢的にはちょうど伊丹十三さんの妹分にあたります。いまも現役のクリエイティブ・ディレクターとして活躍されている小池さんに伊丹十三賞を贈呈できること、選考委員のひとりとして、心から喜ばしく、また誇らしく思っています。

賞の選考にあたって、僕たち4人の選考委員には伊丹十三賞準備委員会から事前に候補者に関する資料が送られてくるのですが、小池さんに関する資料は『美術/中間子 小池一子の現場』という本と『小池一子 はじまりの種をみつける』という2冊の本でした。

「これも小池さんの企画だったのか」

そしてその本を読み始めた途端、僕自身が過去から現在に至るまでに大きな刺激を受け、鼓舞された雑誌、広告、展覧会、イベント、書物などのことが次々に脳裏に浮かびました。
そして、そのひとつひとつのシーンを思い浮かべるたびに、「ああ、これも小池さんの企画だったのか」とか「あ、これも小池さんの仕事だったのか」とか「えぇ、この時も?」という具合に気付かされて、あらためて小池さんのお仕事の間口の広さ、質の高さ、影響力の大きさを再認識することになりました。そして、感心したり、感嘆したりすることしきりでした。

本の中には、"企画を出して実現しなかったものはなかった"という言葉もあり、小柄でチャーミングな小池さんを、思わず見上げるような気持になったりしました。といいつつ、僕が感嘆し、感心したのはそれだけではありません。

本の中に次々に登場する三宅一生さん、田中一光さん、石岡瑛子さん、川久保玲さん、倉俣史朗さん、安藤忠雄さん、磯崎新さん、杉本貴志さん、などなど、ファッション界、デザイン界、建築界において名立たるプランナーの面々と小池さんが二人三脚で、すばらしい仕事をされてきたことに想いを馳せ、人知れず羨望のため息を漏らしたのでした。
小池さんの長い年月にわたる目ざましい活動と、多岐にわたる業績の数々は、どんなに讃えても、讃えすぎるということはないと思います。

さて、ここで不思議に思うのは、小池さんはなぜこのような資質と才能にあふれたクリエイターたちと肩を並べ、対等に仕事ができたのだろう、ということです。

もちろん、小池さん自身が才能に恵まれ、感性豊かなだけでなく、クリエイターが内に秘めている可能性や能力を最大限に引き出す天分があるに違いありません。

そして何よりも、クリエイターたちから絶大な信頼を寄せられていたからだということを忘れるわけにはいきません。
でも、「本当にそれだけだったのだろうか」という思いが、あるいは疑問が、簡単にはぬぐえません。

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じっと聞き入る小池さん、選考委員、宮本信子館長【※】

 

 

●「なんて笑顔のいい人なんだろう」

ここでわたくし事ですが、小池さんとのささやかなおつきあいについて話したいと思います。
8年ほど前、僕は「金沢21世紀美術館」で小屋の展覧会を開きました。そしてその会期中に、中庭に展示した小屋の前で、小池さんと対談させてもらったことがありました。その時は「物を粗末にしない簡素な暮らし」をテーマに話し合ったのですが、対談のあとあとまで僕の印象に残ったのは、話の合間合間に小池さんが見せてくれた、素敵な笑顔でした。「なんて笑顔のいい人なんだろう」と思ったのです。つまり、笑顔に魅了されたわけす。

そしてそれから数年後、今度は目白通りの洋風居酒屋の前で連れだって歩道を歩いていらした小池さんとケン・フランケルさんにばったり出会いました。その時僕は友人たちとそのお店で食事をしようとして、店の前にたたずんでいたのですが、偶然お二人にお目にかかれたことが嬉しくて、ごく軽い調子で「よかったら、一緒に食事しませんか」とお誘いしました。もちろんダメ元のお誘いでした。ところが小池さんは困った様子も見せず、ちらりとケン・フランケルさんのお顔を見たあとで、こちらを振り返ってにっこり笑い、「あ、いいわね」と仰いました。そして、お二人そろって食事に付き合ってくれたのです。
その時の笑顔と、打てば響く即断即決の反応を忘れることができません。

ここでもう一度先ほどの話題に戻しますが、小池さんが、本の中では「太陽のような人たち」と呼んでいた三宅一生さんや田中一光さんたちと対等に仕事ができた背景には、実はこの笑顔が、一役も二役も買っていたに違いないと僕は推察しています。

小池さんの笑顔は人の気持ちを明るくし、和ませてくれる笑顔であり、どんなことであれ相手をその気にさせずにいられない、特別な魔力と説得力のある笑顔といっても良いと思います。

小池さんのご本の中に"私を媒介として人と人をつなげることを大切にしてきました"という一節がありましたが、小池さんの笑顔が、人と人の心をつなげる、かすがいの役割を果たしていたのだと僕は確信しています。

●「伊丹さんはきっと、顔をほころばせて喜んでくれたのではないかと思います」

今回の受賞者が小池一子さんだったということを、伊丹十三さんに報告したら、伊丹さんはきっと「あぁ、それは良い人を選んだね」と、ポンと膝をたたき、顔をほころばせて喜んでくれたのではないかと思います。

というわけで、僕としては、他の選考委員の皆さんの承諾は後ほど取りつけることにして(笑)、今回の伊丹十三賞を、小池さんの数々の輝かしい業績に対してだけでなく、小池さんの " 輝かしい笑顔 " に対して贈りたいと思います。

小池さんのクリエイティブ・ディレクターとしての、今後のますますの機会に期待し、いつまでもお元気で、僕たちの見上げる存在でいてくださるよう小池さんにお願いして、僕の祝辞を締め切りたいと思います。

小池さん、この度の受賞、誠におめでとうございます。(場内拍手)


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中村好文さんの素晴らしい祝辞、いかがでしたでしょうか。

お話の中で何度も「笑顔」という言葉が登場しましたが、この贈呈式でも、小池さんはステキな笑顔をたくさん見せてくださいました。

次週は、そんな小池さんの受賞者スピーチ等々、引き続き式の模様をお届けいたします。お楽しみに!

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【※】の写真は、撮影:池田晶紀さん(株式会社ゆかい)、
撮影協力:株式会社ほぼ日のみなさんです。

スタッフ:山岡

2022.09.05 mon oncle

昼間の暑さはそのままに、朝晩は随分と冷えこんできて、すっかり秋の匂いがする季節になってまいりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。体調を崩しやすい季節ですので、何卒ご自愛ください。

 

 

さて、本日は記念館のグッズショップにて、新たに販売する商品についてご紹介いたします。

 

それがこちら

 

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ほぼ日手帳!

 

ほぼ日手帳とは、第1回伊丹十三賞を受賞してくださった糸井重里さんが運営をされている、株式会社ほぼ日から販売されている手帳です。かく言う記念館でも日々のスケジュールの管理に1日1ページの文庫本サイズを使用しております。

そんなほぼ日手帳の2023年度のラインナップに、伊丹さんのデザインの週間手帳が仲間入りをしました。

 

名前は「mon oncle」

このmon oncle(モノンクル)という言葉は、フランス語で「ぼくのおじさん」。伊丹さんが編集長を務めた精神分析に関する雑誌の名前でもあります。

 

手帳の装丁は、著書『ヨーロッパ退屈日記』の挿絵があしらわれており、シックで使いやすいデザイン。サイズは文庫本と比べて少し長いくらいで、『ヨーロッパ退屈日記』と並べてみるとこんな感じです。厚みは『ヨーロッパ退屈日記』の3分の2ほどで、ちょうど長財布くらいとなっております。

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表紙に描かれているイラストの中でも、左上の鳥の形のレモン搾り器は、記念館のグッズでも良く取り入れられているイラストです。『ヨーロッパ退屈日記』の中の「ミモザ」(p.79)にて描かれるイラストは、クリアファイルやマグネット、シールなどにも使用されております。書籍やほぼ日手帳と一緒に揃えてご使用されるのもおすすめです。

 

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金色で箔押しされている「'23」の文字は、伊丹万作全集を作る際、伊丹さんがレタリングした明朝体です。

 

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また、裏表紙は「スパゲッティの正しい」(p.228)食べ方のイラスト。白地に黒で描かれたイラストが映える、シンプルなデザインとなっております。

その他にも使用されているイラストはございますが、ぜひ『ヨーロッパ退屈日記』の中から探してみてください。

 

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スケジュール帳は、書き込むほど日々の中に根付き、思いついたことや日々の出来事を書き込むうちに、生活の一部になっていくものだと思います。

伊丹さんのほぼ日手帳が、皆様の2023年の一部になってくだされば幸いです。

 

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お値段は2,970円(税込)。記念館では見本もご用意しておりますので、ご来館の際はぜひ手に取ってご覧になってください。ご自分でのご使用の他にも、『ヨーロッパ退屈日記』や記念館のグッズと合わせてプレゼントにするのもおすすめです。

 

スタッフ:橘