記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2022.07.23 かき氷

7月も下旬に入り、学生の方々は夏休みに入られた頃でしょうか。

 

記念館では中庭や玄関口にある木々から、にぎやかな蝉の声が聞こえてきております。

先日ご来館くださったご家族の方で、お子様が興味津々に蝉の観察をしておられました。木の葉の裏に残った空蝉まで観察されており、夏真っ盛りだな、と感じました。

 

 2641_m.png

葉の裏に器用についている抜け殻。中庭の桂で探してみてください。

 

 

さて、本日7月25日は「かき氷の日」だそうです。日本かき氷協会の方が制定したものだそうで、7(な)2(ツー)5(ご)でかき氷のかつての名前「なつごおり」(夏氷)の語呂合せだとか。(加えて、1933年7月25日に日本最高気温を記録したことも所以だそうです。近年、この最高気温は更新されたとのこと)

 

伊丹さんの著書、『女たちよ!』の中には下記のようなかき氷についてのエッセイが収録されています。

 

 ヴェニスのサン・マルコ広場を初めて見た時の私の印象は、恥をいうなら、ここで氷を売ったらさぞ儲かるだろう、というものであった。氷というのは、あの手廻し式氷削り機でもって、しょりしょりとやる、あの氷のことである。

 高校の頃、私は氷のことを「ナガ」と呼んでいた。学校の近くの氷屋の旗が、氷という字の点の打ち方を間違って「永」という字になっていたのである。

 つまり、氷屋というのは、肝腎の氷という字を永と書き誤るような、そういうだめな男が、親類からなにがしかの金を出してもらって店を持つ、そういう時に恰好のものであったのかもしれぬ。

 ともあれ、私たちはよく「ナガ」を食べた。私たちの田舎では、氷を先に削って、あとから、あの色つきの砂糖水をかける。赤いのがイチゴ、黄色がレモン、緑がメロン、白いのはミゾレ、とかスイとかいった。スイとはどういう意味か、定かではない。

 容れ物は、ごく安物の、偽のカット・グラスの、つまりイボイボのあるガラスの器である。これにまたいかにも似つかわしいアルミのスプーンがつく。

 

(『女たちよ!』より「ナガ」 p.229)

 

最近はさらさらの雪のようなかき氷や、牛乳からつくったかき氷、たくさんのフルーツが盛ってあるかき氷と、様々な種類のかき氷を目にすることが増えてきました。

 

 

かき氷.png

数年前の夏に食べたマンゴーのかき氷です

 

 

かく言う私も、ここ数年の写真を見返していると見栄えするかき氷の写真しか残っていなかったのですが、「かき氷」と聞いて思い出すのは、もっぱら紙カップにスプーンストローがついてくる、お祭りで売られているものです。夜市や花火大会であの粗い粒の残る氷を頬張ったとき、「今年も夏が来たんだなぁ」と感じておりました。

 

同じく『女たちよ!』の中で、伊丹さんはこのようにも書かれております。

 

アイスクリームというよりは、もっとジャリジャリしてシャーベットに近い、ほら、昔汽車の駅で売っていた、あれができると思うんだよ。

私はアイスクリームはあれに限ると思う。あのサッパリしたところが実に夏の味わいではないか。やはり凍らした菓子、という感じがなくてはおもしろくない。

(『女たちよ!』より「凍らした菓子」 p.238)

 

かき氷の話と合わせて読むと、なんだか夏はさっぱりした味の、じゃりじゃりしたシャーベットのようなアイスクリームか、手廻しの氷削り機でつくったかき氷が食べたくなってきます。伊丹さんが書かれたエッセイの中でも、特に夏を感じられるエッセイだと思います。

 

 

2643_m.png

 

 

まだまだ暑い日が続きます。遠くに行くのは難しい今、エッセイを読み、冷たいかき氷やアイスクリームを食べて、夏を感じていただけたら幸いです。

 

スタッフ:橘

2022.07.18 第14回 伊丹十三賞 受賞者決定のお知らせ


この度、第14回伊丹十三賞の受賞者が決定いたしました。

第14回の伊丹十三賞は・・・

クリエイティブ・ディレクターの 小池 一子 (こいけ かずこ)さんがご受賞くださいました。



0718-1.jpg撮影:藤塚光政


小池一子さん プロフィール
1936 年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒業。クリエイティブ・ディレクター。1980 年「無印良品」創設に携わり、以来アドバイザリーボードを務める。1983 年にオルタナティブ・スペース「佐賀町エキジビット・スペース」を創設・主宰し、多くの現代美術家を国内外に紹介(~2000 年)。2022 年には初の個展となる「オルタナティブ!小池一子展アートとデザインの やわらかな運動」を3331 Arts Chiyoda にて開催。近著に『小池一子 はじまりの種をみつける』(2021 年、平凡社)。令和 2 年度文化庁長官表彰。武蔵野美術大学名誉教授。



「ファッション、広告、デザイン、アートなど多岐にわたる領域で、半世紀以上、最前線に立ちつづけ、今もなお多くの才能を送り出すクリエイティブ・ディレクターとしての活動に。」対してお贈りいたしました。


この度のご受賞にあたり、小池一子さんよりコメントをいただきましたのでご紹介いたします。


「伊丹十三さんに憧れていた私です。このような賞を頂くなど思ってもいませんでしたので、ただ感謝、感激です。そういえば伊丹さんは私の仕事の一つ、キュレーターの役割にいち早く興味をもってくださったのでした。

小池 一子」




こんなに喜んでいただけるなんて、こちらこそ、感謝、感激です。



さて、いただいたプロフィールにもあります通り、小池一子さんは、『無印良品』の創設に携われた方です。
わたくしは小池一子さんの肩書の「クリエイティブ・ディレクター」という職業にはあまり馴染みが無かったのですが、『無印良品』と言われると、自宅でも記念館でもありとあらゆる商品を愛用させていただいており、距離がぐっと縮まる気持ちがいたしました。
同じように感じられた方も多いのではないでしょうか。


さて、話は少し変わりますが、伊丹十三の初監督作品の『お葬式』(1984年)のプログラムには広告が3つ入っています。
その3つの広告のうちの1つが『無印良品』の広告です。


こちらが『お葬式』のプログラム。

0718-2.JPG
いわゆる「表3」に載っている広告が『無印良品』の広告です。


0718-3.JPG
この『無印良品』の広告のキャッチコピー「色のまんま。」は小池一子さんが手がけられたものだそうです。
ご縁を感じずにはいられませんね。
『お葬式』の公開は今から38年前です。そんなに前から実はこんなに近くにいらした方に伊丹十三賞をご受賞いただけるということで、改めて大変嬉しく存じます。



さて、ここでそもそも「伊丹十三賞」って何??という方に、伊丹十三賞についてご説明いたします。

伊丹十三賞とは伊丹十三記念館の運営母体である「公益財団法人ITM伊丹記念財団」から、毎年" あらゆる文化活動に興味を持ちつづけ、新しい才能にも敏感であった伊丹十三が、「これはネ、たいしたもんだと唸りましたね」と呟きながら膝を叩いたであろう人と作品 " に贈らせていただいている賞です。


第13回の伊丹十三賞の贈呈式において選考委員の周防正行監督が祝賀スピーチの中で
「今までの受賞者の方を見て、伊丹十三賞っていうのはどういうものかっていうのが、もしかしたらわかってくるんじゃないか。」
とお話しくださいました。

今回、第14回を小池一子さんにご受賞いただいたことで、「伊丹十三賞」の輪郭がより一層はっきりしてきたのではないでしょうか。

よろしければ歴代の受賞者や特設ページもこの機会に是非ご覧ください。


※伊丹十三賞概要や歴代の受賞者はこちらから↓
 https://itami-kinenkan.jp/award/index.html

※特設ページも是非ご覧ください。↓
 https://itami-kinenkan.jp/award/award14.html


0718-4.JPG
無印良品の書籍「MUJI BOOKS」からも
「人と物 8 伊丹十三」定価500円(税抜き)が出版されています。
(全国の「MUJI BOOKS」と伊丹十三記念館ショップにて販売中)






スタッフ:川又

2022.07.11 豆乳ブルーベリー開始と次回の映画上映

記念館便りをご覧の皆さま、こんにちは。
厳しい暑さが続いています。体調など、より一層ご注意のうえ日々お過ごしくださいね。

さて、カフェ・タンポポでは今年も「豆乳ブルーベリー」がスタートしました。
紫色のドリンクに、緑のミントの葉っぱをのせた期間限定メニューです。

0719-2.jpg

このメニューを開始すると、夏が来たなぁ...と思います。

豆乳とブルーベリーをミックスしたシンプルなドリンクですが、ほどよい甘味と酸味を楽しんでいただけます。世代を問わずご好評いただいている人気メニューですので、この時期ご来館いただいた時はご賞味くださいませ。

そしてもう一つ、明後日13日は、恒例となりました「毎月十三日の十三時は記念館で伊丹十三の映画を観よう!」の日です。

今年度4回目となる今回は、1988年に公開された「マルサの女2」を上映します。

20220711.png

「あの板倉亮子がマルサカットの寝癖頭を振り立てて帰ってくる!!」という映画ポスターのフレーズにあるとおり、前年1987年に公開され大ヒットした「マルサの女」の続編となる作品です。

初めての方はもちろん、観たことがあるという方も、ぜひご鑑賞にお越しください。

スタッフ一同、皆さまのご来館をお待ちしております!

スタッフ:山岡

2022.07.04 ガイドブック

 

2022年も半分が過ぎ去り、すっかり夏本番のような気温ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

全国的に猛暑の日々が続いておりますので、熱中症などになりませんよう、何卒お身体を大事になさってください。

 

 

ここ数日、記念館の受付に座っておりますと、耳元に虫の羽音がまとわりつくことが多くなりました。掴もうとしても、叩こうとしても、こちらをあざ笑うかのように逃げ続ける蚊を見て、脳裏に浮かんだのは『女たちよ!』の中で伊丹さんが書いていたエッセイです。

 

 そろそろ蚊が多くなってきた。

 五月、六月の蚊は、まだあんまり人間に馴れていないからとるのも楽であるが、これが八月、九月になるともういけない。人間の攻撃の、あらゆる裏表を知りつくした、老巧なやつらだけが生き残って跳梁をほしいままにする。

 パン!パン!と蚊に向かって打つ拍手がことごとく空振りに終って、ついには手のひらがじんじんと腫れぼったくなってしまう。

(『女たちよ!』より「蚊」 p.96)

 

実に、何度も頷きたくなるエッセイです。7月初旬にも関わらず既に手練れが!と思いながら、蚊に苦戦を強いられていると、多くの人と同じように伊丹さんも蚊を煩わしく感じていたのだな、と親近感が沸きました。

 

 

 

さて、本日お話しさせていただくのは、記念館のガイドブックについてです。

 

伊丹十三記念館では、常設展示室に13のコーナーが設けられておりますが、こちらのガイドブックではそれぞれのコーナーの展示品や、展示にまつわるエッセイを収録しております。

ご購入くださる皆さまは、記念館の展示を気に入ってくださった方、ご友人などに記念館を紹介してくださる方、遠方に住んでおり記念館に来るのが難しいお知り合いなどに送ってくださる方など、色々な方がいらっしゃいます。

 

多くのお客様が手に取ってくださるこのガイドブックは、記念館でしか手に入らない物です。そんなガイドブックの、私なりのおすすめさせていただきたい理由が3つございます。

 

1つ目はそのコンパクトさ。文庫本のサイズと変わらないので、伊丹さんの著書の文庫本と一緒に本棚に納めることが出来ます。470ページ弱と分厚いので、持ち運びには多少不便かもしれませんが、その分ボリュームはしっかり。かなり見ごたえのあるガイドブックです。

 

 

s-IMG_2524.jpg

文庫本と並べても馴染みます

 

 

 

2つ目は、伊丹さんと交流のあった方々から見た、伊丹十三という人についてのエピソードが収録されているところです。従兄弟であるギタリストの荘村清志さんや、展示室に入ってすぐの「やあ、いらっしゃい」と笑っている伊丹さんの写真を撮った浅井慎平さん、伊丹さんが精神分析に傾倒するきっかけとなった『ものぐさ精神分析』の著者である岸田秀さんなど、合わせて16のエピソードを読むことが出来ます。

 

 

エッセイ.png

様々な角度から伊丹さんを知ることが出来ます

 

 

3つ目は、実物と見比べることが出来るところです。

展示品が多く収録されているガイドブックは、写真が充実しております。1点目と少し重なってしまうのですが、手のひらに収まるサイズですので、ガイドブックを片手に展示品を見ることが出来るのです。伊丹さんが愛用していたギターやバイオリン、食器やレコーダーなど、様々なものの細部を確かめることができ、展示室ではご紹介しきれないエピソードや伊丹さん自身のエッセイと共にご覧いただけます。

 

 

ギター.png

伊丹さんが愛用していたギター

 

 

 

食器.png

金継ぎをして大切に使っていた大皿

 

 

 

 

 

鞄.png伊丹さんがイラストで描いていたズックもご覧いただけます

 

 

私個人の感覚なのですが、多くの美術館の図録は大判のものが多く、家に飾っておくだけになってしまいがちな気がします。この記念館のガイドブックを初めて手にしたとき、このサイズ感がとても素敵だな、と思ったので、魅力が少しでも伝わっていれば幸いです。記念館以外の場所でも読むことが出来るガイドブックですが、是非、展示室の中や、読み物として使ってみてはいかがでしょうか。

 

スタッフ:橘