記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2019.05.13 第11回伊丹十三賞 贈呈式を開催いたしました [1]

4月26日(金)、第11回伊丹十三賞を玉川奈々福さんにお贈りする贈呈式を国際文化会館で開催いたしました。

11th_01_00.jpg左から、選考委員・周防正行さん、南伸坊さん、
曲師・沢村豊子師匠、受賞者の玉川奈々福さん、宮本信子館長、
選考委員・平松洋子さん、中村好文さん。

浪曲師・曲師としてご活躍中の玉川奈々福さんへの授賞理由は

現代の観客のこころを動かす語りの芸と、浪曲にあらたな息を吹き込む卓越したプロデュース力に対して。

受賞者プロフィールや賞の概要はこちらをご覧ください。

多くの方がお祝いにかけつけてくださり、また、奈々福さんには受賞記念の浪曲を特別にご披露いただいた贈呈式、2回に分けてレポートいたします。

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祝辞 選考委員・平松洋子さん

今回は、ご覧のとおり――初めて目にする方もいらっしゃるんじゃないかと思うんですけど、これは、浪曲師の方が公演なさるときに必ずお使いになるもので、奈々福さんがいつもお使いになる、金魚の絵柄の「テーブル掛け」です。

11th_01_01_01.jpg冒頭、今回のステージのしつらえについてご説明くださいました。
浪曲は、浪曲師オリジナルの、華やかなテーブル掛けをかけた
「演台」で行われるものなんだそうです。

11th_01_01_02.jpg「テーブル掛け」という呼び名を知った時は
"そのまんま(笑)"ぶりに驚いた、と平松さん。
手描きの一点ものなんですって、美しいですねぇ。
そして、演台が用意されているということは――(☆)

のちほど、ひと節、唸っていただくことになっておりますので、どうぞ、それもお楽しみになさっていただきたいと思います。

「伊丹十三賞」と「浪曲」。間違いなく、伊丹十三さんは「なるほど!これは面白い!」というふうに、ポーンと膝を叩いていらっしゃるのではないかと、思っております。

玉川奈々福さん、このたびは、第11回伊丹十三賞をお受けくださいまして、ありがとうございます。

奈々福さんは、古典から新作まで、硬軟さまざまに演じる浪曲師であり、また、ジャンルを超えて芸能に風を通す方として、まさに、東奔西走の活躍ぶりです。その原動力、ほとばしる浪曲愛にこちらも胸が熱くなります。

奈々福さんが二代目玉川福太郎師匠に入門されたのは、1995年。当初は三味線の修業をされていたと伺っております。ところが、福太郎師匠の勧めで浪曲師に転身。その6年後、「奈々福」の名前をお披露目なさいました。つまり、浪曲師として一本立ちして18年目、ということになります。

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「芸は年季が物語る」と言いますけれども、今思えば、奈々福さんの浪曲修業は18年よりずっと以前から始まっていた、と言えるのではないかと思います。
長らく出版社で編集者を務めながら、奈々福さんは、言葉と向き合ってこられました。担当編集者として関わってこられた、石牟礼道子さん、志村ふくみさん、小沢信男さん、あるいは、大衆芸能に通じていらっしゃる小沢昭一さんら、敬愛する多くの方々と四つに組みながら、多くのものを蓄え、培ってこられたのではないかと思っております。
その豊かな歳月があればこそ、奈々福さんの浪曲の一語一語は粒だっているのだと思われてなりません。

また、何度も大きな試練に直面なさってきました。大切な後ろ盾であった福太郎師匠が事故で急逝なさり、2015年には、浪曲界を牽引していらした国本武春師匠が若くして亡くなられたことは、浪曲界にとっても大きな衝撃だったと拝察いたします。
しかし、皆様一丸となって乗り越えられ、こんにちの浪曲に新しい風が吹いています。

11th_01_01_04.jpg(☆)

今、浪曲、落語、講談などの場に足を運びますと、会場の熱気に驚かされることしばしばです。
かつて、小沢昭一さんと国本武春師匠が「浪曲は貧乏な時代に受け入れられる」と語っていらしたそうですけれども、この「貧乏な時代」という言葉の意味について、考えてみたくなります。とかく言葉が安易に利用されたり、誤魔化しに使われがちな今、「貧乏」なのは言葉ではないことは、明らかです。だからこそ、聴く者が全身を耳にして直に言葉を受け取り、自分自身で言葉のもつ意味を醸成する語りの芸が求められているように思います。

最後になりましたが、相三味線(あいじゃみせん)を務めていらっしゃる、曲師・沢村豊子師匠の存在も、忘れるわけにはいきません。【場内拍手】

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お三味線の素晴らしさは言うまでもありませんけれども、豊子師匠の存在が奈々福さんを叱咤し、励ましながら支えていかれたと思います。
浪曲師と曲師は、相手の感情を瞬時に読み取り合いながら、阿吽の呼吸で語られるもの、その丁丁発止に私たちは胸が揺さぶられるのだと思っております。

奈々福さんは、浪曲師になられた後、ご自分の大伯父様が浪曲師であったことをお知りになったそうです。それにもびっくりするんですけれども、もうひとつ。お誕生日が、浪曲界にも大きな功績を遺された、三波春夫さんと同じで(笑)。そういう偶然の符合がもつ意味を、やはり、今日また考えたくなります。

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浪曲を知っている人にも、まだ浪曲に出会っていない人にも、どうぞ、力強く浪曲を届けてください! よろしくお願いいたします。

正賞(盾)贈呈 選考委員・南伸坊さんより

 

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副賞(賞金)贈呈 宮本信子館長より

11th_01_03.jpg(☆)

 

 

 

受賞者スピーチ・受賞記念 浪曲披露

司会「それでは、玉川奈々福さんより、ひとこと頂戴したいと思います。例年、受賞者の方にはスピーチをお願いしておりますが、今回は特別に、受賞記念の浪曲もご披露いただきます。三味線演奏のため、曲師の沢村豊子師匠にもご登壇いただきます。よろしくお願いいたします」

11th_01_04_01.jpg調弦中の沢村豊子師匠
(注・奈々福さんのお姿はここでは見えていないことになっています!)

お三味線の調弦が済んだ絶妙の頃合で、チョーーン!と柝頭(きがしら=拍子木)が打たれ、いよいよ玉川奈々福さん登場。
お客様から「待ってました!!」「待ってました!!」「待ってました!!」「奈々福!!!!」と、熱い掛け声が飛び交い――

11th_01_04_02.jpgン待ってました!!!!(☆)

―― 来週に続きます ――


写真撮影:池田晶紀さん(株式会社ゆかい
撮影協力:ほぼ日刊イトイ新聞の乗組員のみなさん
(☆印の写真のみ主催者撮影)

 

学芸員:中野