記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2018.08.27 夏の終わりに

処暑を過ぎて8月も終わりに近づくと、まだ暑い日はあるものの、晴れた日には随分空が高くなったように見え、少しずつ秋が近づいているように感じます。
夏の終わりによく思い出す伊丹さんの文章があります。エッセイ『ヨーロッパ退屈日記』の最後に収められている、伊丹さんと音楽の関わりを綴った二章「古典音楽コンプレックス」「最終楽章」からの一節です。


"(前略)その夏のある日、わたくしの「音楽的生涯」における画期的な大事件が持ち上った。
 放浪の旅に出た、一人の無名のピアニストが、わたくしを訪ねてきたのである。"


「古典音楽コンプレックス」『ヨーロッパ退屈日記』(1965年)より


"その日わたくしは縁側に寝そべって、例の、手で捩子を巻く仕掛けの蓄音器で「クロイッツェル・ソナタ」を聴きながらランボーの詩集を読んでいた。
 夏の盛りには、時間はほとんど停止してしまう。たぶん一年の真中まで漕ぎ出してしまって、もう行くことも帰ることもできないのだろう、とわたくしは思っていた。あとで発見したのであるが、人生にも夏のような時期があるものです。"


「最終楽章」『ヨーロッパ退屈日記』(1965年)より


こうはじまる、松山で暮らす高校一年の伊丹さんを訪ねてきた「無名のピアニスト」が夏の終わりに去っていくまでのエピソードが印象深く、この時季によく思い出すのです。
また、「最終楽章」には伊丹さんが描いた蓄音機の挿画があるのですが、こちらも緻密な描写が心に残ります。

2018.0827_1.JPG「最終楽章」 蓄音機の挿画


描かれている蓄音機は、父・万作の形見で、京都から松山に移るときも大切に持ち運んだそうです。
記念館の常設展示室にある「二 音楽愛好家」の文字にも、このイラストが添えてあり、ご覧になったお客様から、「エッセイを読んだことを思い出しました」とお声をかけていただいたことがあります。

2018.0827_2.JPG常設展示室「二 音楽愛好家」コーナー


『ヨーロッパ退屈日記』は、オンラインショップでも取り扱っております。未読の方は、ぜひどうぞ。


スタッフ : 淺野

2018.08.20 松山のお土産に「十三饅頭」はいかがですか?

いよいよお盆も終わりましたね。お盆の記念館は帰省やご旅行のお客様で賑わいました。

記念館の売店では、お盆やお正月は特にお土産向きの商品のお買い上げが目立ちます。


その中でも人気なのはやっぱり「十三饅頭」!



まず、十三饅頭は伊丹十三記念館でしか販売しておりません。
松山で一番有名なお菓子「一六タルト」で知られる「一六本舗」で製造されていますが、販売は記念館限定です。
ということは、まず味に間違いはありませんね。お土産で渡す時も「あの一六タルトの会社で作ってるんだよ~」と付け加えるとより松山感が増してよいですね。

中にはしっとりとした漉し餡が詰まっています。甘い物が苦手な方もご安心下さい!餡の甘さが控えめで大変食べやすいと評判です。

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また、パッケージにも拘っています。

パッケージの黒い部分は外壁の焼杉板をイメージしています。
そしてこの黒い部分は一部くりぬかれていますが、これも記念館の中庭をイメージしているデザインなのです。

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中身は個包装されているので職場などで配るのにも向いていますね。

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あと、よく観光地で偉人の名前が入ったTシャツやらお土産やらというのを見かけますが、それらの字というのは「それっぽくデザインされた字体」を使っていることが多いと思うのですが、この十三饅頭の「十三」という字はなんと伊丹さんの自筆の字を焼印にしているんですよ。

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と言う訳で、配りやすく、味も間違いなく、「松山に行ってきました」感もあり、「十三饅頭」というインパクト大なネーミングも影響して、皆さまがお土産に選ばれるのも納得ですね!

松山でちょっと変化球のお土産をお探しの方は記念館の売店で是非チェックしてみてくださいませ。

スタッフ:川又

2018.08.13 津川さんと伊丹映画

8月4日、津川雅彦さんが78歳でご逝去されました。

芸能一家に生まれ、若くして映画スターになり、出演作品・監督作品でエンターテインメントに身を捧げ、知的で気さくなトークでも、たくさん楽しませてくださいました。
スクリーンの中、テレビ画面の中の津川さんのお姿には、長年にわたって日常的に慣れ親しんできたので、寂しくて、まだちょっと信じられないような気もしています。

津川さんは、多くのご訃報のニュースで紹介されたように、伊丹映画の常連でいらっしゃいました。10本の伊丹十三脚本監督作品のうち、9本にご出演なさっています。

marusa_hanamura.jpg『マルサの女』ポスター(企画展に展示中)より

そして、インタビューをお受けになるたびに、転機になった作品として伊丹映画を挙げ、伊丹さんとの仕事について熱心に語ってくださった方でもあります。つい先日も、テレビでこんなふうにお話ししてくださったばかりでした。


「しつこい監督、でも、いい監督だから、(細かい注文に対応できるように)1シーンにつき2週間かけてセリフを臓腑に叩き込みました。そうすると芝居が自在になる、つまり、芝居が軽くなるってことが分かった」「だけど、上手くなればいいってもんじゃなくて、役者はやっぱり存在感。人間性を磨いていくのが大事。そういうことにも気付かされました」(2018年7月11日放送、BS朝日「昭和偉人伝 長門裕之/津川雅彦」)

 

shinchofilms_13dvd.jpgなぜ「臓腑に叩き込む」ほどセリフを練習する必要があったのか......
書籍『伊丹十三の映画、DVD『13の顔を持つ男』の
津川さんインタビューをぜひご覧ください。

フランス帰りの精神科医、老婆を追いかけまわす食料品店の店主、人間味で脱税者に迫る国税査察官、女次第で出世したり没落したりの銀行員、サミットの開催準備に頭を悩ませる外務省官僚、ワガママな癌患者に翻弄されて成長するエリート外科医、ダメスーパーを立て直していくダメ専務、愛する女優を守るため死を選ぶテレビ局の局長――


こうして書き並べてみるとオファーされた役の幅広さに驚くと同時に、伊丹さんが津川さんをどれほど頼みにしていたかがよく分かりますね。

劇場用パンフレットのキャスト紹介には、津川さんについてこのように書かれています。

「芸者にもてる役人」という注文が伊丹監督からあったというが、さして外側を作るでもなく、本人そのままのようでいて、いつの間にか役になりきってしまっているのがこの人の魅力でもありスケールの大きさだろう。森雅之亡きあとの大きな穴が、今、彼によって埋められようとしている。マルサの女』パンフレットより

 

「自然体の人」と伊丹が呼ぶように、実に自然でいて、大人の色気や可愛さを持っている。昔のスターは森雅之にしても池部良にしても佐田啓二にしても、佐野周二や上原謙にしても、実にきっちりと「しがない勤め人」がやれたもんだが、この人はそういう昔の映画スターの良き伝統をひいている。マルサの女2』パンフレットより

お別れは悲しいですが、津川さん亡きあとの大きな穴を埋める俳優が今後出てくるかもしれません。次のスターの到来をじっと待つことにいたします。

あちらへ到着したら、映画について、エンターテインメントについて、日本人について、伊丹さんと大いに語り合われることでしょう。
こちらに残る私たちは、津川さんの素晴らしいお仕事をずっと語っていきたいと思います。ありがとうございました。

学芸員:中野

2018.08.06 懐かしい言葉

お正月やゴールデンウィーク、夏休みなどの時期には、以前愛媛に住んでいて県外から帰省され、地元のご家族やご友人とのお出かけで記念館にお越しくださる方がたくさんいらっしゃいます。

今年はそんな方々から、「懐かしいですね~」というお言葉を特によくうかがいます。

ご覧になられたのは、昨年12月から開催中の企画展「おじさんのススメ シェアの達人・伊丹十三から若い人たちへ」 でご覧いただけるスペシャル映像「伊丹十三による正調松山弁シリーズ 一六タルトCMセレクション」。
伊丹さんが手がけた一六タルトのCMの中から成績篇、手洗い篇など7篇を紹介する約5分の映像では、伊丹さんが「もんたかや」等、昔ながらの松山弁で語りかけてきます。

CMが放映されていた時にリアルタイムでご覧になっていた方は「このCM覚えてる!」「学生時代に観た!」など、お連れ様と話が弾むことも多いそうです。
また、映像で流れる松山弁自体を懐かしむ方も少なくないようで、先週お越しになった、小さい頃松山に住んでいたという東京からのお客様は「両親や祖父母が話していた言葉を思い出しました」と仰っていました。

方言はそれを耳にしていた頃の記憶を呼び起こしますので、それをきっかけに、ご家族ご友人同士で当時の話をするのもいいかもしれませんね。

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ちなみに、CM自体が面白いので、観たことや松山弁を聞いたことがなくてももちろん楽しめますが、意味を推測してみるのも面白いと思います。特に、この企画展の映像には標準語の字幕がついているので、「答え合わせ」ができるんですよ!
地元の方でも知らない言葉があって、「こんな方言もあるんだなぁ」と思われるかもしれません。
記念館にお越しの際はぜひご覧になってください。

スタッフ:山岡