記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2016.08.08 うわあ、いいな。いいな。

暑い日が続きますが、今年も何とか立秋を越えました。残暑お見舞い申しあげます。
過ごしやすい季節になるまでは、まだしばらくの辛抱ですね。くれぐれもご自愛ください。

karuta_inoshishimo.jpg企画展示室の「伊丹万作の手作り芭蕉かるた」は
暦に応じて秋の季語ものに入れ替えました。

高校時代の思い出が綴られた伊丹エッセイの中に、夏についてのこんな記述があります。

夏の盛りには、時間はほとんど停止してしまう。たぶん一年の真中まで漕ぎ出してしまって、もう行くことも帰ることもできないのだろう、とわたくしはおもっていた。あとで発見したのであるが、人生にも夏のような時期があるものです。

「最終楽章」『ヨーロッパ退屈日記』1965年

途中まで「そうですね、まったくそのとおり、止まってしまいますよね」と頷きながら読み、"おもっていた"(過去形)から先で「ああそうか、自分はもう大人だから"停止"してる場合じゃないんだった」と思い改める――何度も読んでいるはずなのに、毎回このパターンになってしまうのはなぜでしょう?
進歩のすっかり止まったらしい頭にガッカリしつつ、身体だけでも止まらないように、せっせと水分栄養補給をしています。

暑さついでに「夏にまつわるエッセイ」をもう少し――

田舎の葦簀張りの休憩所や、場末の映画館の売店や、そういう場所で、ぼくはずいぶんラムネを飲んだなあ。そうしてラムネを飲んで元気を出した。
ラムネはたいがい大きな、水を張った金盥の中に沈んでいたり、ブリキの箱の中に氷といっしょにはいっていて、だからラムネの壜は必ず濡れていた。乾いているあいだは検査証みたいな青い紙の封印がしてあるけど、冷しているうちにたいがい剥がれてしまう。
そういうラムネを買って、あの独特の「ラムネの蓋開け器」でもって、ラムネの壜をシュポン! と抜く。ラムネが泡立って、ビー玉がコロコロして、うわあ、いいな。いいな。

「悪魔の発明」『女たちよ!』1968年

読んでいるこちらも「うわあ、いいな。いいな」となりますねぇ、そして「ラムネを飲んで元気を"出した"」という表現がすばらしいですねぇ、暑さに挫けた心がちょっと勇気づけられる気がします。

――と、このように伊丹エッセイに登場したラムネは、残念ながら記念館のカフェ・タンポポでは扱っておりませんが、夏のお客様に猛烈にオススメのメニューがございます。

icedcoffee1608.jpgタップリサイズでございます。ごゆっくりどうぞ~

「なーんだ、アイスコーヒーじゃん」と侮るなかれ。たしかに、種も仕掛けもないアイスコーヒーです。さわやかで芳しく、美味。しかし、良いのはお味と香りだけではありません。
グラスに格子状の模様が見えますでしょうか? その格子模様のデコボコは、グラスの外側ではなく、内側にあるのです。ということは......そうです。

アイスコーヒーをストローでクルクルしていただきますと、グラスの内側のデコボコと氷が触れあって、まことに涼しげな、い~い音が、カラカラ、コロコロ~ン、と店内いっぱいに響くのです。

ご来館の際には、カフェにもぜひお立ち寄りください。ときどき納涼しながら秋までがんばりましょう。

※このグラスでご提供するメニューはアイスコーヒー(500円)のほか、豆乳アイスコーヒー(600円)がございます。どちらも夏季限定のメニューです。

学芸員:中野