記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2015.07.13 宣伝マンとしての伊丹十三

早いもので、この記念館でお世話になりはじめて7年以上が経ちましたが、取材対応の難しさというものを痛感している今日この頃です。
年月を重ねるほどに、「タメになることをお伝えしないと!」「でも間違ったことを口走らないように気を付けなくちゃ!」「宣伝になることもお話ししなければ!」と力んでしまうからでしょうか。


先日も、取材に見えた方が自分の拙い回答を実に丁寧にメモしてくださるので、恐縮しつつ「私の話でいいのでしょうか」と焦っていたら、「いろんな人のいろんな意見を読める記事が面白いんですから、大丈夫ですよ」と励ましのお言葉を頂戴してしまいました。お気遣いいただいてすみません。
(取材対応させていただいたということは、記事にしていただけるということで、間もなく世に出る予定のものがいくつかあるのは楽しみです! 今しばらくお待ちくださいませ!)

さて、取材といえば、伊丹十三が「取材する側」としての力量を大いに揮ったことは、専門的な職業人の世界を舞台にした映画の数々から、みなさんよくご存知だと思いますが、「取材される側」になることにも、積極的に力を注いだ映画監督でした。
脚本を書いて監督を務め、しかも製作費は自己資金。ですから、作品を完成させるだけではなくて、映画をヒットさせるための作戦にも、真剣勝負で挑まなければならなかったのです。
本当に効果的な宣伝方法を考えた結果、高額な費用をかけてスポットCMを流す時流には乗らず、テレビ・ラジオに出演し、新聞・雑誌のインタビューを受けることで作品の面白さを自らアピールする、という方法を取りました。なるほど、私が子供の頃にテレビで伊丹さんの姿を見たのは、今にして思うと、映画のパブリシティが多かったように思います。

そんな風なあの手この手の宣伝作戦の中で、私が「へぇ、面白い!そうだったの!」と興味深く感じたのは、「取材される伊丹十三」と「取材する伊丹十三」が、ひそかに共同作業した「ある仕事」なのですが......

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一例として挙げましたのは、監督第2作『タンポポ』(1985年公開)のチラシの裏側。冒頭を拡大しますと......

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一見、誰か「聞き手」を置いて、監督に質問しているインタビュー文......と見せかけて、実はこれ、「聞き手」も伊丹さん、つまり「架空のインタビュー」を伊丹さんが創作して書いているのです。「伊丹十三が聞かれたがっていること」をいちばんよく理解している人物(すなわち伊丹十三)に質問してもらうための、最適の方法ですものね。
「自分で書けばタダで済むからサ、これも倹約の一環なのヨ」と言いながら、張り切って書いていたであろう伊丹さんの様子がありありと想像できます。

ほかにも「架空アンケート」形式などなど、凄腕宣伝マン・伊丹十三の創意工夫が詰め込まれたチラシの裏側は、ポスター大に引きのばしたものを全作品分、常設展示室でご覧いただけます。

ex13_panel.jpgこんな仕掛けで設置しています

「ふうん、昔の映画のチラシね」と素通りしてしまってはもったいない、映画をご覧になったことのある方にも、ご覧になったことのない方にも、楽しんでいただける読み物です。ぜひどうぞお見逃しなく! 読み出したら途中ではなかなかやめられないシロモノですので、お時間と体力をたっぷり確保してお越しくださいませ。

さて、悩める私も日々よく読み直して、宣伝の極意を学びたいと思います。

学芸員:中野