記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2015.07.06 ウチワデアオグトドウシテ涼シイノ?

先日、扇子で扇ぎながら中庭の回廊を歩いている女性のお客様がいらっしゃいました。
この時期、百貨店をはじめ色々なお店で扇子のコーナーが作られていたり、実際に扇子をお持ちの方をよく見かけたりするので、暑さ対策の一つとして扇子を持ち歩く方が多いんだなぁと感じます。このお客様も「暑がりだから扇子は夏の外出には手放せないの。なかなか涼しいのよ」と仰り、お話をうかがっている最中もパタパタと扇いでらっしゃいました。

さて、そんな涼しそうなお客様をみて、伊丹さんの「ウチワデアオグトドウシテ涼シイノ?」というエッセイがふと心に浮かびました。タイトルに覚えがある方もいらっしゃるかもしれませんね、伊丹さんの著書『問いつめられたパパとママの本』に載っていて、「うちわであおぐとどうして涼しいのか」を科学的に解説してくれているエッセイです。一部ご紹介しますね。

 

前略)さて、そこで、うちわであおぐとどうして涼しいのか。風がくる前の皮膚の状態を考えてみると、皮膚からは絶えず水分が蒸発している。すなわち皮膚に接している空気はいくぶん飽和状態に近い状態におかれると考えていいでしょう。つまりわれわれの皮膚は湿っぽい空気に包まれているわけですね。
 そこへうちわの風が新しい乾燥した空気を送りこんでくる。すなわち皮膚に接する空気が乾いた空気と入れ替わるわけで、たちまち、皮膚からの蒸発はさかんになり、したがって皮膚は気化熱を奪われる。熱を奪われるからすなわち涼しい、とこういうことになるのであって、まさかみなさん、風が吹いて涼しいというのが、こんなややこしいことだとお思いにならなかったでしょう。(後略)


この本では、上記の他にも「空ハナゼアオイノ?」「オ昼ナノニドウシテオ月サンガ出テイルノ?」などの質問を、ひとつひとつ、やさしく解明してくれています。本のタイトルからわかるように、子どもの素朴な疑問――でも、改めて聞かれると「あれ、どうしてだろう」と大人が答えに困ってしまう疑問ばかりです。

子どもから「問いつめられる」というのは、普段大人があいまいにしていることを理解するいい機会で、そこでしっかりと認識して答えることで大人自身の物の見方もより深まるのかもしれませんね。
興味を持たれた方は、イザ聞かれたときに備えてぜひ一読してみてください!

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【挿絵も伊丹さんが描かれています】

最後に、同じく『問いつめられたパパとママの本』からもうひとつ、夏らしく「夏ニナルトドウシテ暑イノ?」というエッセイをご紹介しますね。 

 

 「夏はね、太陽が一年中で一番近くなるの。だから暑いのよ。わかった?」
 困るなあ、こんなでたらめを教えてもらっちゃあ。
 太陽が一番地球に近づくのは一月の初めであります。夏にはむしろ、太陽は遠くにいるのであります。一番遠いのは七月の初めなのである。
 太陽の近さと暑さは、まるでなんの関係もない。
 夏が暑いのは、ひとつは日が長いせいであり、いまひとつは、太陽が真上から照りつけるせいであります。
 じゃあ、日が長いと、どうして暑いのよ、なんていわないでおくれよ。同じ条件で物を熱するとするなら、十分間熱するより、十五分間熱するほうがよけい熱くなるだろうじゃないの。夏が暑い理由の第一は、だから、日が長いということであった。
 では、次に真上から照らすと、なぜ暑いのか、というなら、たとえば懐中電燈を想像していただきたい。
 懐中電燈の光を床に当てるとき、まっすぐ床に当てれば、小さいけれども強く明るい光の円ができるだろう。しかるに、それを斜めに当ててみようか。さっきより、ずっと床の近くから照らしても、照らす場所は広くなるかもしれぬが、明るさはずっと希薄になってしまうのが観察されるに違いないのであります。
 つまりこの、垂直に照らすということなのだ、太陽がカンカン照るということは。
 夏になると、太陽が真上から照らすから(その証拠に、夏の真昼の影は、小さく足元にまつわりついている)、したがって光や熱が強く当たり、冬になると、太陽が斜めに当たるから(その証拠に、冬の日は、真昼でも長く伸びている)、したがって地面を熱する力は弱くなる。(後略)

 

スタッフ:山岡