記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2015.03.02 次の冬に向けて

松山では日差しに春らしさが感じられるようになってきました。
と同時に、花粉情報や黄砂情報からも目が離せない季節のはじまりですが、みなさまお元気でお過ごしですか?

 

150302fukinoto.JPG企画展示室・伊丹万作手作り芭蕉カルタ
春の季語のものに入れ替えました。
ふきのとう! 春ですねぇ~


寒さに震えていた頃は、あたたかい日差しを恋しく思って「春よ来い早く来い」と毎日念じていたのに、風やお水の冷たさがおだやかになってくると、急に、冬らしいこと、冬しかできないことを「あれもこれもまだやってない!」と思い出し、冬将軍をお引きとめしたくなってしまいます。
冬らしいことの代表に鍋料理がありますね。春を前に「あと何回お鍋できるかな」「お鍋するなら寒いうちね」とお献立の組みかえを図る方もいらっしゃるのではないでしょうか。

鍋料理といえば土鍋。長年、土鍋のある生活に憧れていながら、購入に踏み切れないまま今に至り、そして、やはり今季も買わずに終わってしまいそうです。
たまに「これなら手を打ってもいいかな」というものに出くわすこともあるのですが、検討しているうちに、心に浮かぶ伊丹エッセイのこんな一節――


 そういえば、そろそろ土鍋の季節であった。冬になって、いかにも羨ましい具合いに使いこまれた土鍋が出てくる家庭というものは、なんとも奥床しいものである。その家の食生活の長い年輪を感じるのである。われわれ若僧の所帯は、いつになっても土鍋が変に真新しくて、ま、いっても詮ないことだが、興味半減なのですな。
 私は土鍋は京都で買うことにしている。現在六つくらいの土鍋でローテイションを組んで、なるべく均等に使うようにしているから、古びてゆく速度はおそろしくのろいのだが、私はこの土鍋を全部京都の窯元で買った。窯元で買うと、土鍋なんていうものはなんとも安いものである。(中略)
 窯元で聞いた新しい土鍋を使う上の注意は、使う前に底に墨を塗る。火にかける時、外側が決して濡れていてはいけない。使い馴れるまでは瓦斯(ガス)にかけないなどであった。

『女たちよ!』「サムの土鍋」より


ガスにかけずに炭火で馴らす!? という点からして挫けてしまいますが、ここに書かれている以外にも、たとえば目止めですとか、洗う時は洗剤を使ってはいけない、熱いうちに水につけてはいけないなど、注意点が結構あるのが土鍋というものだそうで。
素材の性質にまで気を配り、手間を払い続け、「食生活の長い年輪」が出るほどに土鍋を"育てる"ことができるのは、大人のわざのように思われて、まだまだヒヨッコの自分には過ぎた道具だと退散してしまうのです。

来季こそ、土鍋のある冬を......過ごせるようになっていると、いいなぁ......

 

20150302onogawananohana.JPG


すっかり菜の花が満開になった館の前の土手を眺め、そんな夢を見ている今日この頃であります。
寒さの続く地域もあることと存じますが、どなた様もよい春をお迎えください。

学芸員:中野