記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2015.01.05 50周年

あけましておめでとうございます。2015年、いかがおすごしですか?


 150101iwatesan.JPG元日、岩手から愛媛に戻る途次、
新幹線車内から岩手山が見えました。
ありがたきかな。



今年は"20十三"年ですね!」と書いたのが、昨年ですらなく一昨年、という事実に気付いて驚愕しております。ついこの間のことのように記憶しているのに......なんということでしょう。

昨年は、とくに大きな声では申しあげませんでしたけれど、『お葬式』公開すなわち伊丹十三映画監督デビュー30周年でした。

今年2015年は、『お葬式』の翌年に公開された第2回監督作品『タンポポ』から30年、ということになるのですが、映画監督以前からの仕事である文筆業でいいますと、初エッセイ集『ヨーロッパ退屈日記』刊行から50年、なのであります。



DSC_1235.JPGのサムネイル画像左:ポケット文春、右:B6判
ポケット文春の頃は、伊丹「一三」(いちぞう)でした。



1965年にポケット文春シリーズから出た『ヨーロッパ退屈日記』を1974年にB6判へ改めたときでさえ、若かった自分の書いた文章について「われながら青臭く、うとましく、恥ずかしさのみが先に立つ」とあとがきに綴った伊丹さんですから、こんなにも長く読み継がれることになるとは、想像もしていなかったことでしょう。

その後、文春文庫になり(1976年)、新潮文庫になり(2005年)、多くの方に読まれ愛され続けて半世紀――イヤハヤ!

長く読まれてきたエッセイは(たとえば『枕草子』のように千年以上の時を経たものでも)、書かれている内容・出来事・情報が面白いとかタメになるとか歴史を学べるとかいうことを超えて、著者のするどい着眼点のありよう、もっといえば、世界に対するすぐれた皮膚感覚を、力強く、しかし心地よく、いきいきと、私たちに追体験させてくれる、そういう魅力があると思います。書き手の「発するもの」や「発し方」ばかりではなくて、その手前にある、ものごとの「受け方」に感銘を受ける、といいますか。
読み終えて顔を上げると世界がちょっと違って見えるような不思議な感じが、『ヨーロッパ退屈日記』を初めて読んだときも、しましたっけ。あの感じは、ほんとうに愉快なものですね。


未読の方、どこかでこの本を(もちろん他の伊丹エッセイでも!)見かけたら、ぜひお手に取ってみてください。ちょっぴり伊丹十三になることができ......るかもしれません!

出版から絶版へのサイクルがどんどん速まっているこのご時世にもかかわらず、たくましく50周年を迎えようとしている伊丹十三の初エッセイ集を眺めながら、「このホームページや展示でいい発信をするために、私も受ける力を鍛えて磨かなくちゃ」と、そんなことを考えている年頭です。

本年もどうぞよろしくお願い申しあげます。

学芸員:中野

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<おしらせ>
日本映画専門チャンネルの戦後70年企画「ある日本映画史~長門裕之と津川雅彦の場合」で、津川さんの代表的出演作として『あげまん』が放送されます。津川さんのインタビューもたっぷりの特別番組と併せてお楽しみください! 伊丹万作脚本の『無法松の一生』(子役時代の長門裕之さんが出演)も放送されますヨ!!
 

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