記念館便り ― 記念館からみなさまへ

記念館便り

こちらでは記念館の最新の情報や近況、そして学芸員やスタッフによる日々のちょっとした出来事など、あまり形を決めずに様々な事を掲載していきます。

2014.08.25 夏の読書

ある夏の日にカフェをご利用くださったお客様で「夏だけ読書家なんです」という方がいらっしゃいました。

今はもう社会人の息子さんが小学生だった頃、夏休みの読書感想文に四苦八苦していたのを見かねて、「ちょっとアドバイスでもしてやろう」と課題の本を読まれたそうです。「これが思いのほか面白かったんですよ。それからは息子の夏休みに、読書に付き合うのがすっかり楽しみになりまして」。その名残か、毎年夏になると無性に読書をしたくなり、ひと夏に何十冊も本を読まれるのだとか。伊丹さんの著書も大好きでよく読むんですよとおっしゃって、この日はアイスコーヒーを飲みながら、持参された『再び女たちよ!』(新潮文庫)を読んで1時間程カフェで過ごされていました。

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【カフェ・タンポポのアイスコーヒーといっしょに】

 

暑さで疲れを感じやすいこの季節、ちょっと涼しい場所で、冷たい飲み物を傍らに置いて、本を読みながら静かな時間を過ごす。読書といえば秋をすぐイメージする私ですが、お客様の話を聞きながら、そんな夏のひと時もいいなと感じました。

カフェ・タンポポには、読み物として記念館ガイドブックなど本を何冊か置いており、どなたでもご自由にお読みいただけます。また、グッズショップでも伊丹さんの著書をはじめ読み応えのある本を販売しております。
お気に入りの1冊になるかもしれない本を、記念館にお越しの際はぜひ手にとってみてくださいね。

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【カフェのラック。ご自由にお読みください】


8月も残すところあと1週間となりました。最後に、上述のお客様も読まれていた『再び女たちよ!』から、夏の風物詩のひとつ「花火」がタイトルのエッセイを一部ご紹介いたします。

 (前略)歩いてみると縁日なんてものは相変わらず気分の出るものですねえ。綿飴屋がある。金魚屋がある。盆栽屋がある。だれが買うのか知らんが、小さな亀なんか金盥に入れて売っていたりなんかする。そうして――ああ、すっかり忘れていたなあ、そうそう、こんなものがあったっけ――花火!花火を売っている屋台を私は発見したのである。

 

 しかし花火というものも変わらないねえ。あの、日本の玩具特有の紫や桃色や緑や黄の染料の色はどうだろう。妙に毒毒しく、そのくせ、うらぶれた、沈んだ色合いはどうだろう。
 桃色の軸に、汚れた銀色の火薬を塗りつけた「電気花火」がある。紫や白や赤、黄、緑の斜めの縞模様の「線香花火」がある。線香花火を、くるりと輪にしたような「鼠花火」がある。太い筒で「落下傘」なんていう花火がある。打ち上げると、紙のパラシュートがゆらゆらと降りてくる、あれです。
 私は、花火の前に、まるで夢見心地で立っていた。なにかこう、落ちぶれた肉親にでも会ったような、懐かしさと、遣瀬無さに包まれて、私は呆然と立っていた。(後略)

(『再び女たちよ!』-花火―)

スタッフ:山岡