伊丹十三賞 ― 第6回受賞記念トークショー採録

リリー・フランキー × 周防正行 トークショー
テーマ「いかにしてリリー・フランキーになったのか」(7)

2014年11月12日/松山市総合コミュニティセンター キャメリアホール
登壇者:リリー・フランキー氏(イラストレーター、作家、俳優など)
     周防正行氏(映画監督)
ご案内:宮本信子館長

周防 あの、ずっとお話しを聞いてきて、実は一つ聞きたくてずっと聞いてなかったのは、なんで「リリー・フランキー」っていう名前で仕事をすることになったのか。そもそもリリー・フランキーって、誰がどういう理由でつけたお名前なんですか?
リリー そうなんですけど、ま、そんなに聞いても面白いエピソードではなく。
「リリー」って、大学に入ったときのあだ名だったんですよね。結構、浪人の人が多くて、現役で入ってる男の同級生が4人ぐらいしかいなかったんですよ。だから「かわいがられてた」っていうのもあるんですけど。
でもやっぱり田舎から来てるから、東京の人に初めて会うわけじゃないですか?

周防 はい。
リリー 同じクラスに、ものすごいギターの上手い人がいたんですよ。
ギターの上手い人は九州にもいたけど、クラシック弾くんですよ、オレの2万円のモーリスのギターで。しかもバッハのことを、「ヨハン・セバスチャン・バッハ」って言ったんですよ、その人(場内笑)。「こんな人九州にいない」って思って。

周防 (笑)はい。
リリー 毎日、帰りにオレんちに寄ってギター弾いて。もう、「教わる」とかじゃないんですよ、レベルが。その人、3つからクラシックギターやってて。
周防 はい。
リリー で、いつもバッハとかいろんなものを弾いて聞かせてくれてて。
その人は練馬に住んでて、オレ、学校の近所に住んでるから、泊まることが多くなるわけじゃないですか。で、次の日また一緒に学校に行くわけじゃないですか。「あいつら付き合ってんじゃねぇか」的なことに、なんかどんどん学校でなってきて、オレが「リリー」で、その人が「ローズ」って呼ばれてたんですよ(場内笑)。

周防 (笑)
リリー 「百合」と「薔薇」だったんです。
周防 はいはい、そのリリーなんですね。
リリー はい。
それで、みんなそれぞれの仕事始める時に、オレ、中川雅也っていうんですけど、「リリー中川」って名前も、ちょっと「ひと昔前感」あるじゃないですか。ちょっと浅草のマジシャンみたいな感じあるし(場内笑)。
で、そんときに、「フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド」っていうバンドがあって。

周防 ああ、はいはい。
リリー そして、「リトル・フランキー」さんっていう、小人プロレスの人の音感がどこかに残ってたんですよ。
で、ミュージシャンの、カルチャー・クラブをやってた「ボーイ・ジョージ」っていう人が、「なんでボーイ・ジョージっていう名前なんですか?」って聞かれたときに、「ぼくの名前を聞いても、男か女かも、なに人かもわかんないのがいい」って。だから、その「フランキー」を取って、「リリー・フランキー」ていう名前にしてたんですけど。
いや、これはでも、ほんとこういう名前で後で苦労する人っているじゃないですか?

周防 はい。
リリー ナンシー関さんもそうですし、ポルノグラフィティの人たちもそうですけど、「まさかこんな名前で一生仕事すると思わなかった」っていう。
今は携帯持ってるからいいけど、昔は、結構編集者と待ち合わせだったじゃないですか、喫茶店で。

周防 はいはい。
リリー よく新宿の「スカラ座」っていう喫茶店で待ち合わせをしてたんですけど。オレよりも遅く来る編集者っていうのはめったにいないんですど、でもたまにあるんですよ、「オレが先に来ちゃった」っていう時が。
そしたら、喫茶店で「お客様のリリー様」って呼び出されるわけですよ(場内笑)。向こうは「リリー」としか知らないから。でも新宿2丁目の近くでそんなふうに呼ばれたら、完全にもうゲイバーの従業員だと思われるわけじゃないですか(場内笑)。その時に、なんか違う名前にしときゃよかったなっていう(場内笑)。

周防 (笑)いや、でも確かに「リリー・フランキー」って聞いたときに、性別はわからないし、国籍も不明だし、「何もわからない」っていう点では狙い通りだったんですね。
リリー そうですねぇ。
周防 ただ「リリー・フランキー」っていう名前を名乗って、「リリーさん」って呼ばれることに、皆さん何の違和感もなくなるっていうのは、積み上げてきた仕事の力じゃないですか?
リリー いや、だからこそあれなんですよ。だって「リリー」っていう名前で50まで独身で――これ「ゲイだ」って言ったほうが、世間体すらいいじゃないですか(場内笑)。
だから、オレの「下着デザイナー」と「ゲイの道」と、その生き方が整合性ついてるんですよ、なんか。

周防 (笑)なるほど。
ぼくの知ってるところで言えば、ケラリーノ・サンドロヴィッチっていう演出家の人もいるし。さっき出たナンシー関さんもそうだし、最近はマツコ・デラックスさんっていう人もいるし。まぁそういう名前が……

リリー たぶん、オレぐらいからを境目に……。
昔サブカルの人って、みんなひらがなだったんですよ。「いとうせいこう」さん、「みうらじゅん」さん……

周防 ああ、たしかに「みうらじゅん」さんもそうですね。
リリー で、オレぐらいからちょっとカタカナに寄っていきはじめて、「カタカナ職業」って言われてる部類になってきたんですよね。

講演会の様子

周防 ――というわけで最後にきて……
リリー え、いま、最後なんですか!?
周防 もうそろそろ時間なんですよ。
リリー まだ全然童貞のままですよ、今の話じゃ(場内笑・拍手)。
周防 (笑)失礼しました。もう時間がそろそろ……
リリー ここからオレが性の深淵に触れていく、一番クライマックスの部分が(場内笑)。
周防 (笑)じゃあそれはまた次回に……
リリー 次回貰えないですよね?一回貰ったら、たぶん。伊丹十三賞……(場内笑)。
周防 (笑)
リリー 今のままで終わると、オレがホモになるまでのストーリーを、このタイトル(「いかにしてリリー・フランキーになったのか」)で聞いてた、みたいな(場内笑)。
周防 (笑)でも、ゲイのイメージまったくないですけどね。
リリー そうですか?
周防 うん。
リリー これからなるんです、ぼく(場内笑)。
なる前に宣言してて、オレの知り合いのオカマが「リリーさんがホモになるって2丁目で噂よ」って言われましたからね(場内笑)。

周防 (笑)それ「なる」って言ってなるもんなんですか?
リリー これがねぇ、無理してなるところに、やっぱり文明が高いところがある(場内笑)。
周防 (笑)
リリー いや、ほんとになんかあれでした。
ぼく、四国はちょくちょく来てるんですけど、松山でこんなにゆっくりするのが初めてで。「いつかゆっくりしたいな」と思ってたらこういう機会で、うん。
そして伊丹さんの賞をいただいて。なんか――現金で100万円いただいたんですよ(場内拍手)。
他の賞は、だいたいそんな額もいただけないですし、だいたい振り込むんですよ。
振り込まれたら事務所に振り込まれて、オレには1円も入ってこないんで。でも、現金で100万円――封がついている100万円――を、オレ人生で初めて財布に入れたんですよ。
「この100万円を、どう使おうかな?」って思ったときに、なんか自分のために使うのは違うなって。今までやってきたことに対して褒めてもらってることだからって。
例えば事務所の人に「この人には、じゃあいくら」とか、「この飲み屋にいつも行ってるから、この飲み屋にいくら」とか。で、そうやってるうちに、2か月半くらいかけて1枚ずつ配りました。
そうすると、3ヶ月くらい経ったら、「あの人、今お金配って歩いてる」みたいな噂がいろんな町で(場内笑)。

周防 (笑)良い使い方したんじゃないですか?
リリー それでね、飲み屋で配ると「オレも、ほんと伊丹十三さん大好きです。その賞をもらったって、こんなゲンのいいお金ない」っていうので、みんな額に入れて飾ってるんですよ。
周防 ええ〜。
リリー その次に行った飲み屋でも配ってるから、「連番じゃねぇ?うち」みたいな(場内笑)。
飲み屋同士が、あの100万円をまた作品化していってるんですよね、なんかこう。

周防 ああ、すごいですね。そういう使い方があるっていうのが。表現ですよね。
リリー その100万円を自分で使うの違うなと思って。財布に100万円入ってるのに、銀行で金おろしてましたから、うん。
でもやっぱ、そういう賞でいただいたお金、「何か買う」っていうのもなんか違うなっていう気がしました。

周防 ぼくは選考委員になって痛感したんですね。それまで選考委員をやったこともなければ、審査員の類もやったことなかったんですけど、伊丹十三賞の選考委員になって、どなたかに決めて。これは、その人に賞をあげるんじゃないんですよ。「貰っていただく」。
だから、いつも玉置さん(伊丹十三記念館館長代行)が、選考会が終わった後に授賞を決めた人に連絡して、「こういう賞なんですけど、貰っていただけますか?」って言った時の、その「返事待ち」っていうの、すごいドキドキなんですね。で、喜んで貰っていただけると、「こんなに嬉しいんだ。賞を貰っていただくってこんなに嬉しいんだ。選考委員ってこんな気持ちになるんだ」っていうのを初めて知りました。だから、ほんとうに嬉しいんですよ。

リリー いやぁ。今日ほんとに――貰った時もそうでしたけど――あらためて、記念館で生の原画だったり筆致だったりを見ると、やっぱり「まだ恐れ多いな」というか、そういう気持ちにあらためてなりましたね。
それはほんとに、宮本さんに送る手紙1枚に対してもすごくクリエイティブで、「手を抜かずきっちりしたこと」っていうんですか?うん。日々こうじゃないと、いきなり仕事でちゃんと精度を上げるっていうのは、やっぱり無理なんだなって。だからほんと、30年ぐらい遡ってやり直したいですもん、オレ(場内笑)。

周防 (笑)
リリー オレも、そういえば昔、何年前ですかね……7〜8年前にインドに行ったんです。
その時、夜お酒飲めないから、オレやったことないのに、初めて海外のホテルで、そのホテルの便せんで、伊丹さんみたいに手紙を書いたんです。その時付き合ってた人と……原稿待たせてる編集者と。

周防 (笑)
リリー で、お酒も飲まないで手紙書いてる。自分も、ちょっとそれに酔ってる節があるなっていう、ちょっとロマンチックなこと書いたりしてるんですよ。
そして切手買いに行ってエアメール分貼って、ホテルのロビーで「これ出しといてください」って渡したら――やっぱオレがそういうことをするとそうなのかはわかんないし、それがインドなのかわからないんですけど――誰にも届いてないんですよ、その手紙(場内笑)。
一番キツイのが、オレが死んだあと届くとか(場内笑)。メッセージ・イン・ア・ボトル的に、なんかもう忘れた頃に届くのもキツイじゃないですか。やっぱそこで、伊丹さんが宮本さんに「返信がほしい。ぼくも毎日書くから君も毎日出してくれ。BY AIRって書かないと届かないからね」って――やっぱりこういうことをちゃんとやってる人だから、ちゃんと手紙は届くんだなっていう。

周防 (笑)
リリー いや、結局なんかアレなんですけど、「いいものを作る方法」っていうのは、ほんとはとっくの前にわかってるんですけど、それができてないだけなんですよね。
ほんとに丁寧に、細かく、諦めずに……作り続ける。それしかないじゃないですか?

周防 うん。少しずつ少しずつ積み上げるしかない。

講演会の様子

リリー そして「妥協せずに」っていう。それがわかってんのに、やっぱどっかで自分に対しての甘くなってる部分が、精度を落としていくとこに……。
だからなんか、あらためて伊丹さんの仕事だったり美意識だったりを見ると、ちょっとこう身が引き締まるというか……。

周防 じゃあ、身が引き締まったところで……
リリー あれ?終わるんですか?(場内笑)
周防 (笑)締めないと……いけない時間になってしまいました。
リリー 初めてのペッティングの話が、これから2時間ぐらいあるんですよ(場内笑)。
周防 (笑)それはまた、じゃあどこかのエッセイで(笑)。
リリー これ『青春の門』で言うと、まだ1冊目の終わりのところですけど(場内笑)。
周防 (笑)どうもすみません、聞き手が拙いもので。
リリー いやいや。でもこんなに丁寧に人生を掘り下げて、「自分の人生がいかにペラペラか、みんなに聞いてもらった」みたいな感じになりました(場内笑)。
周防 (笑)
リリー ――いや、でもほんとに思いました。
周防監督もそうですし、伊丹さんもそうですし、ご夫婦で映画を作られるじゃないですか?

周防 はい。
リリー それって「大変なのかな、大変じゃないのかな?やりやすいのかな、やりにくいのかな?」ってずっと思ってたんですけど。
オレ、今日記念館を見て、「やっぱり一番やりやすく、一番能力が出るパートナーだったんだな」っていうのが、あの手紙1枚でもわかりました、なんか。そして、たぶん「あ、そういう人に巡り合える人生っていうのが、豊かな人生なんだな」っていうのを思いながら、あの桂の樹をずーっと見てました。

周防 うん。
リリー そしたら宮本さんが、「この樹を眺めながらね、プロポーズする人がいるのよ」って。その気持ちわかったんですよ。
周防 ああ……。
リリー こういう人間の関係性を築けてたら、この樹見たら「そら告るわいな」と思って(場内笑)。
オレ、たぶん誰か隣に座ってたら、知らない人でもプロポーズ……(場内笑)。

周防 (笑)
リリー だから、なんかそういう意味で……あれでしたね。なんか、うん……。
「一緒に物を作る理想的なパートナーがたまたまお家にいた人」だったのか、「お家にいた人と物を作ったらこうなったのか」っていうのは、それはわからないですけど。素晴らしいそういう関係――近くにいればいろいろあるでしょうけど――「やっぱり最高のパートナーで作られたものだったんだな」っていうことがわかると、なんかちょっとねぇ……オレも50過ぎて「ゲイになる」とか言ってないで、早めに結婚でもしときゃよかったな(場内笑)。
――と思う今日この頃ですけど。

周防 まぁ、「ゲイの素敵なパートナーをみつける」っていうやり方もありますんで……(場内笑)。
リリー ほんとですか?オレが来たときに、ガチムチの男の人と一緒にいたら、そうだと思ってください(場内笑)。短パンで短髪だったら、そしてショルダーバックをたすきがけにしてる男だったら、もうまずオレの彼女だと思ってください、それは(場内笑)。
周防 (笑)じゃあ、締めさせていただいてよろしいでしょうか?(場内笑)
リリー (笑)今、宮本さんが早く終われ的な拍手……(場内笑)。
周防 (笑)どうも、長い間ありがとうございました。
リリー いや、ほんとになんか光栄でした。ありがとうございます(場内拍手)。
周防 楽しい話を、拙い聞き手で申し訳ないです。
リリー いえ、監督ありがとうございました。
いやでもなんか、あれですね。ほんとにお医者様みたいに、人をいろいろ喋らせる何かがありますね、やっぱ。そうやって女優を演出するんですね(場内笑)?

周防 いえいえいえ……
リリー なんでオレが「女優気分」で聞いてんのかわかんないですけど(場内笑)。
周防 (笑)じゃあ、すいません!締め方がよくわからない。どうもすみません……ありがとうございました。
リリー (笑)ありがとうございました。

(場内拍手)

― 終演 ―

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